『 会社の噂の法則 』

ネット時代を反映してか、「HPやメールを情報収集の手段にフル活用している」という転職者が増えている。このメールマガジンを読んでおられるみなさんもその一人だろう。以前は足も頭も使って得ていた情報が、パソコンの前に居ながらにしてどんどん集まるのだから、これほど便利なことはない。最近はこのメルマガの配信元「[en] 社会人の就職情報」でもやっているように、自分の条件に合った求人情報を選別送信してくれるサービスまである。

26歳の広告代理店営業マン、Uさんもネットで様々な転職情報を集めていた一人だった。Uさんが我々の人材紹介オフィスに人材登録したのは昨年の秋。その頃Uさんは「最近自宅でもパソコンを始めたんです」「メールで気軽にご連絡ください」と嬉しそうに語っていたものだった。特に転職は急がないので、ネットでもじっくり情報収集したいのだと張り切っていた。

そうこうするうち、Uさんに面接の話が舞い込んだ。相手先は中堅広告代理店のA社。キャリアのわりりには相当数の大規模案件をUさんが提案受注していることにA社は着目し、Uさんの志望でもある企画系の部署人員としての採用を打診してきた。面接は1次2次と順調に進んでいく。Uさんは配属予定部署のスタッフとも面談し、現場の仕事ぶりを特に気に入った様だった。

ところが、内定も直前になったある日、Uさんが暗い顔で我々のオフィスを訪ねて来たのだった。面談室で向かい合った私に、Uさんは持参してきたノートパソコンであるHPを見せた。「A社の社名をサーチエンジンで検索していたらこれを見つけたんです」とUさんは不安そうに訴える。そこでは数人と思われる匿名の記入者が、A社の内幕らしきものを暴露していたのだった。

要約すると「トップが無能」「仕事がずさん」といった内容である。これは主観である場合も多いし、何より情報ソースがはっきりしない。しかし、ある部類の人の本音の情報とも言える。A社を良く思っていない人たちだ。「ある意味、本当なのかも知れませんね」と私は言った。そして続けて「Uさんはどう判断するんですか?」と言った。Uさんにしてみれば、そこが聞きたかった所なのだろう。だが私はUさん自身に判断を委ねたのだった。

どんな会社であろうと、見る角度を変えれば良い面も悪い面も無尽蔵に出てくる。さらに様々な視点からの企業像を、パソコンひとつで手軽に見てしまえるのがネット転職の怖さとも言える。表の情報を鵜呑みにしてもいけない。裏の情報を信じ込んでもいけない。最後に頼りになるのは、情報を総合的に判断する自分の力と目なのだ。UさんはA社へ入社して、そろそろ半年になる。やはり仕事が面白く、充実しているらしい。Uさんは、他人の様々な主観も頭に入れた上で、最後にはそれを超える自分の価値観を信じたのだった。

『 適職の法則 』

転職者のみなさんから“適性”について質問されることが多い。自分は他にどんな職業が向いているのか。こんな仕事をしたいが適性はあるのか、等々。適職診断系サイトの診断結果を携えて来る人もいる。そんな時、私は主に2つのアドバイスをしている。ひとつは“自分本来の性格のみに固執しない”もうひとつは“経験してきた職業や職場の振り返りをする”ことである。

新卒者なら適職診断の結果を素直に受け止めて良いかも知れないが、社会人はそうはいかない。なぜなら私たちは就職と同時に“社会人としての人格”を形成していくからだ。仕事の性質、職場独自の業務フロー、雰囲気、企業モラル。その一つ一つが私たちのビジネス人格を形作る。だから、自分はもともとこんな人間だからと思って選んだ仕事が、微妙にズレていたりする。

Hさんという具体的な例を挙げて説明しよう。Hさんの会社は、業界ではベンチャーと位置づけられる中堅メーカー。彼はその中で数年連続トップの売上を誇る花形営業マンだった。そんなHさんに、ある日異動の話が持ち上がった。人事の採用担当が実家の都合で休職を余儀なくされるため、Hさんにその間のピンチヒッターをぜひとも務めてもらえないかというのだ。

Hさんの会社は急成長していたとは言え、ベンチャーだけに採用には苦戦していた。採用活動は販売と同等にこの会社の重大事であり、そこで営業部門の中でもとりわけ優秀なHさんに白羽の矢が立ったのだ。「何ごとにも細やかな君の性質は、採用に向いていると思う」と、Hさんの上司は言った。Hさんも、「人とじっくり話をするのは好きだから面白そうだ」と思った。

こうして、Hさんは採用担当として精力的に面接をこなし始めたのだが、その時期から人員採用実績が激減しだしたのである。面接ではいいところまで行くのに、土壇場で応募者に逃げられてしまうのだ。応募者のフォローもHさんは前任者以上に丁寧だったし、原因はしばらくわからなかった。Hさんの上司と私が何度か面接に同席し、やっと判明した。Hさんは、営業時代に叩き込まれた“強烈なクロージング”を、転職者に対しやっていたのだ。

結局Hさんの癖は、彼自身が幾ら気をつけても直すことができなかった。誰もが採用向きと思ったHさんの性質も、彼が培ってきた“ビジネススタイル”には勝てなかったのである。適職について聞かれる時、私はこのHさんの話を思い出す。私たち社会人にとって適職を見つけることは、つまり、今までの仕事を見つめなおすことなのだ。どんな環境で、何をどのように進めてきたか。そこへまず立ち返ってこそ、本当の適職が見えてくるはずなのである。

『 2つのツボの法則 』

「どこへ行っても危機的状況から逃れられそうになくて、どんな会社を選べばいいのか全くわからない」。最近、転職者のみなさんから、このような相談を受けることが本当に多くなったきた。以前なら株価や資本金の絶対額など、人それぞれこだわるポイントを持っていたのだが…。ところが、表に出てくるそうした数字が、決してアテにはならなくなってきている。転職者のみなさんが、判断基準を見失って途方に暮れる気持ちもよくわかる。

私もこの数字さえ見れば絶対だと言える“指標”は提示できない。しかし、私なりに様々な企業を転職者に紹介してきて“押さえておけばゆくゆく損はしない”という“ツボ”なら経験的に身についている。転職時のコンサルティングという仕事上のことだけでなく、もし自分自身がこの先転職する時にも、必ずこだわるだろうというツボがある。大きく分けて、そのツボは2つである。ひとつは「事業の中で、何かひとつ強みを持っているか」もうひとつは、「社員がどれだけの裁量権を与えられているか」だ。

なーんだ、と思うかも知れないが…。これがなかなか、見分けがたいツボなのだ。まず、どこの会社も「ウチにはこんな強みがあり、社員には裁量権を与えている」と、無理矢理にでもアピールしてくる。実際探す際には、当の企業だけでなくその周辺の人々や、信頼できる人材紹介会社等に客観的評価を聞く。これに尽きるだろう。“事業内の強み”については、主力分野を競争力において独占し、さらにその分野内に特化した新商品を常に作り続けていること。“裁量権”は、漠然と「任せる」と言うのではなく「この仕事のここからここまでを任せる」と明確に言ってくる会社であることが条件だ。

この2つがあると何が違うのかというと、“もし外へ出なければならない事態になっても損をしない”のである。転職者のキャリアに後々有利に働くのだ。例えばある情報系企業の出身者は、どこへ転職しても歓迎されるという現象がある。その企業は、営業力と新しい営業戦略の開発にかけてはナンバーワンだという共通の社会認識があるからだ。企業の強みが、そこから出ていく転職者にもついていくのである。また“裁量権”に関しては、明確にされた業務を丸投げされることで、キャリアを深めることができる。つまり、先の見えにくい時代にあたってツブシのきく人間になろうというわけだ。

絶対に安全な会社など、もはや無いと言われる。では、なにを指標とすべきか。それは“企業より自分自身の将来性”なのだと、私は思う。今回ご紹介した2つのツボをぜひ役立て、労をいとわず調べて頂きたいと思う。

『 ずれた経歴書の法則 』

最近の職務経歴書は単に経歴だけでなく、業務実績と自己の能力をストレートにアピールする形式が主流になっている。私たちのオフィスに転職者が持ち込む経歴書にも、そんな形式のものが増えてきた。実績・スキル重視へと急速に傾く時代の流れに、一見沿っているようなのだが…。中身を詳しく見ると、形式は新しいのにポイントのずれている経歴書も少なくないのだ。

業務実績だけを脈絡なく書き連ね、結局何ができるのかが見えにくい人。アピールしている能力は素晴らしいのに、希望職がその能力と掛け離れている人。「英語ができます」とハッタリを書いたために、面接で英会話能力を試され、さんざんな目にあって帰ってくる人…。本当にいろいろである。ただそのぐらいなら小さなミスとも言える範疇だし、修正するのは簡単だ。

いちばんアドバイスしにくいのが、“根拠なき自画自賛型”の経歴書だ。「部門の責任者として、充分なマネージメント能力を発揮」「分析力に優れ獲得した情報から企画立案する能力に長けている」等々。何に優れているのかはわかるのだが、その裏付けがまったくないのである。実績と能力をアピールするはずの経歴書の“実績”の部分がすっぽりと抜け落ちているのだ。

このような経歴書は実は、“実績”の部分さえ整えば、一転して強力な武器になる。例えば「プレイングマネージャーとして、自己の目標達成率○%、部下の達成率についても1年間で平均○%UPの実績をおさめ、社内表彰の対象に選ばれました」。こんな具合に能力を裏付ける実績を書けば、良い経歴書になる。だが、そんな裏付けを後で出してこれる人はなかなかいない。“自分にはこんな能力がある”という思い込みで自己評価しているせいだ。主観は極力外すべきである。自己を冷徹に数値化して見る客観性が欠けていては、どのようなキャリアプランも絵に描いた餅で終わってしまうだろう。

書いたからには試される。それが経歴書なのだ。みなさんが納得しなければ大きな買い物をしないように、企業も、納得しなければみなさんに採用費をかけて迎え入れたりはしない。経歴書は、“この部分を企業が読んでどう感じるか”“自分が採用側だとして、この記述で納得するだろうか”と考えながら書いてみる。まずは、そこから始めてみてはいかがだろう。

『 実力主義と自己認識の法則 』

“実力主義”という言葉に良い印象を持っている人は、実は意外と少ないのではないだろうか。実力主義の社会なんてせちがらい、年功序列や終身雇用のある種のんびりした面を見直してほしいという声もちらほら聞こえてくる。まだ実力主義を認めたくない。そんな空気が漂っているように見える。

しかし私が転職者の支援をする中で日々見えてくるのは、もう否応なく“実力主義”に傾いていく世の中なのである。特に中途採用の市場では、学歴など本当に見てもらえなくなっている。人事が戦略的に機能していて採用力のある会社ほど、転職者のスキルや業務経歴を重視する。志望会社がどんなスキルや業務経歴を求めているのか理解し、そこへぴったりはまるものを提示してみせられる人が優先的に採用されていくのだ。仕事の中で今まで何をしてきたのか。その全てを明確に語れるか否かが、ポイントになってきている。

ところがこの“自己を語る”という作業を、なかなか上手くこなせない人が多い。仕事の評価は他者にしてもらうというシステムに慣らされている上に、自分の目指すべき目標や人材像まで会社に決めてもらって過ごしてきた人があまりにも多いのだ。そこで私は、“あなたについて、ひとつとことん語りあってみよう”という方法で、転職者の自己認識を促すことにしている。

カウンセリングは大体以下の順番で進んでいく。●具体的にどんな仕事をしてきたのか●その仕事の中でどんな独自性を身に付けてきたか ●その独自性の中で強みだと言えるものは何か ●今後その強みを活かしてどんなキャリアプランを描くか …みなさんにお勧めしたいのだが、私のようなコンサルタントでなくて良いから、誰かを相手にしてこの語りあい作業を行なってみてほしい。できればあやふやな点に遠慮なく突っ込んでくれる友人が良い。酒でも飲みながらやってみれば、ヒートアップすることだろう。

一人で紙に書き出してみるのも良い方法だが、相手を置いて話すこの方法の方が効果的だと思う。四角四面な“文体”ではなく、自分の言葉で、他者にも理解できるように伝えなければならないからだ。自分の言葉で自分のことを真摯に話す。その経験があるとないとでは、本当に違う。今まで何をしてきたか、これから何をすべきなのか、いろいろなことが明らかになる。

実力主義を受け入れることに躊躇したところで、否応なくやって来るのならば、私たちは有利に活用していくべきである。それが図太いビジネスマンというものだ。語ることで自己認識するという作業は、別に転職する時でなくとも、あなたの今後の指針を決める上で役に立つはずだ。20代は、まだあちこちで迷いがあってもいい時期だとは思う。しかし30代以上になると、自分の強みや方向性をしっかり掌握しているか否かで、これからは差が出てくるだろう。ぜひ自分を語れる人になって頂きたい。みなさんのご健闘を祈る。

『 不満の法則 』

明日にでも会社を辞めてしまいたい…。そんな感情につき動かされたとしても、たいていの人は、まず冷静になろうと努力する。“ここでキレたら、後で損をするだけ”“次の目星をつけることが先決だ”“今は我慢する時だ”…等々と自分に言い聞かせた経験が、皆さんにもないだろうか。そして多くの場合、当座の感情を上手く押さえ込むことだけに終始していないだろうか。

とりあえず危機を回避できたとしても、また何かのきっかけがあれば、同じことの繰り返し。感情を爆発させては自らなだめる、苦しい堂々巡りを続けることになる。すぐには会社を辞められない、または辞めないほうが良いと感じている場合、これは大変な精神的苦痛である。では、どうすれば堂々巡りから脱出できるのか。私がお勧めしたいのは、辞めたいと思う気持ちの根本を点検してみる作業だ。自分の“不満の出所”を整理してみるのである。

例えば不満の中核にあるものが“人間関係”なのだとしよう。あなたとコミュニケーション不全を起こしているのは誰と誰なのか。名前を書き出してみる。次に、それぞれの人と具体的にどう上手く行かないのか、事例を交えて個条書きにする。さあ、リストは出来上がった。大切なのはここからだ。

出来上がったリストを、できるだけ第3者的な視点で点検してみよう。この時に気をつけて頂きたいのは、全体を見るのではなく、あくまで個々の事例について考えるようにすることだ。不満というものはたいてい“積もり積もって”爆発するものである。ひとつひとつを見れば、これは転職理由に足らない問題かも知れないと思い直せるものも、少なくないのではないか。さらに、ビジネス上の考え方の相違ではなく、単に人間的に合わない人物に悩まされているのなら、彼らとビジネス上で付き合うメリットが存在しないかぜひ点検してみよう。嫌悪感と実利を天秤にかけ、本当に転職するほうが有利なのか、残ることに旨味はないのか冷静にジャッジしてみてほしい。

何といっても全体を通して念頭に置いて頂きたいのは、“この不満は、次に生きるものなのか”ということだ。組織人である以上、不満の中で働くことはある種、宿命とも言える。不満に食い潰されてはならない。私たちはむしろ不満を上手に活かし、先々の自己利益につなげていかねばならない。利にならない不満をきっかけに転職しても、大抵あなたが損をするだけなのだ。

『 上司の法則 』

転昔はあんなに尊敬できる上司だったのに、最近なぜか不甲斐なく、格好だけの人間に見えてしまう…。仕事のアラが目立つのに、相変わらずの上司面。以前は本当に仕事のできる人だったのに、なぜ変わってしまったのか…。

皆さんも、自分の上司に対してそんな思いを抱いた経験がないだろうか。自分より絶対的に優れていると手放しで尊敬していた対象が、付き合う年数を経るごとに鈍化し、さほど素晴らしい人間には思えなくなる経験だ。これは別に、あなたの上司が悪いのではない。恐らくその上司は昔も今も同じように仕事をしているだけである。強いて言えば、あなたの能力が上司に追い付いた。上司と同等以上のレベルまであなたが成長したということだ。本来喜ぶべきことであり、私たちは皆、こうした経験を経て一人前になっていく。

転職理由のひとつに、上司との関係悪化を挙げる人が少なくない。仕事の進め方や部署運営に関する意見が合わない。部下の進言を聞き入れてくれない。人間的に尊敬できない…等々。私も転職者の皆さんから、さまざまな“やってられない上司”の生態を耳にする。確かに、中には本当にひどい上司も存在する。よく今まで耐えてきましたねと驚愕することもある。しかし…。

“上司と意見が合わない”。この転職理由には、私は懐疑的なのだ。転職者の多くは、上司の仕事の進め方は間違っている、自分の方が正しいと言うのだが、果たして本当にそうなのだろうか? 会社や部署という組織内には、必ず何らかの運営方針や事業方針といったものが存在する。それらを現場の業務レベルまで落とし、方針に添った行動を部下に遂行させるのが上司の役割だ。“上司の意見”は正しいのか、間違っているのか。評定できるのは、皆さんではない。会社である。つまり会社に帰属する以上は上司個人の意見だけでなく組織全体の方針を知る必要があり、知る努力をせねばならない。組織の方針に照らして上司の意見が正しいのであれば従うべきであるし、そこで自分の意見を押し通すのは子供じみている。上司対あなたの構図を越えて、組織全体からあなたがひんしゅくを買っている可能性もありうるのだ。

それでも納得できない。組織の方針に照らしても自分の方が正しいと思うのなら…。それは、上司とあなたが合わないのではなく、あなたが会社と合っていないということだ。いずれにせよ、上司ひとりやふたりの為に自分の人生を狂わせるのは、馬鹿馬鹿しいことではないか。せっかく上司と拮抗するまでに成長したのだ。安易に転職するより、上司以上の能力をさらに身に付けるべく努力するほうが、よほど建設的だと私は思うのだが。

『 自問自答の法則 』

転職すべきか。せざるべきか。今時のビジネスマンたるもの、一度は悩んだ経験がおありだろう。私も時々、メールや面談で真剣な相談を受ける。転職したいという希望自体が果たして是か、非か。プロの目で判断してほしいというわけだ。話を聞いてもっともだと思えば転職を勧めるし、甘いと思えば現職にとどまることを勧める。人材紹介オフィスだからといって、すべての転職を奨励するわけではない。むしろ、慎重に動いてほしいと願っている。

繊維関係の営業マン、Iさんの例をご紹介しよう。彼は半年ほど前に自宅でインターネットを閲覧し始め、あるサイトを発見した。そこでは、自分と同じ業界の関係者が、匿名で業界の内幕を語っていた。見たところ自分と似たような年齢・ポジション。よく見るとプロフィールに年収が書かれている。Iさんより100万ばかり多かった。サイトの管理者を「たいした奴じゃない」と思っていたIさんにとって、この年収はかなりのショックだったようだ。奴に負けられない。俺も他の会社でなら奴と同じくらいの年収が取れるはず。そんな思いが、Iさんの中で日に日に膨らんでいった…。

相談しに来たIさんに対して、私は2つの提案をした。ひとつは“今日の所は転職するしないの決定は保留にする”。もうひとつは“今晩自宅で、鏡に向かって自問自答する”。決して冗談ではない。鏡の前に立ち、自分の目を見ながら自分に聞いてみるのだ。もし自分が雇用する側であれば、Iという男に幾ら給料を払うか。その金額は、どのような根拠で決定されたものか。100万円年収がアップするのならば、アップした金額は、自分の仕事のどの部分の実績に該当するのか。また、それをロジカルに説明できるのか…。「鏡に向かってですか?宗教じみてますね」とIさんは不満そうだった。

別に宗教は関係ない。ファーストフードの店員教育でもなされているように、鏡に向かうと自己を冷静に客観視できるのだ。そこで、論理的な説明を自分に強いてみる。単純な迷いなら、これで解決できる。別に我々コンサルタントに頼らざるともできる、簡単な自己解決法だ。ぜひお試し頂きたい。

さてIさんであるが、後日メールが届いた。給与にはやはり不満だが、自社の評価システムに照らして考えれば妥当なラインかとも思う。あのサイト管理者の実績が直接わからない以上、比べるには無理がある。転職を完全にあきらめた訳ではないが、しばらくはここで粘ってみる…。といった内容だった。Iさんの選択は正しいと思う。不満と上手く付き合うことが、働くという行為には欠かせない。感情だけに流されて動くと、良い結果は得られない。

『 転職Eメールの法則 』

転職者の皆さんからEメールで相談を頂く機会がかなり増えてきた。今回はそんな中で私自身が気付いたことを、皆さんにお知らせしたい。転職コンサルタントの側から見たEメールの長所短所と、それを踏まえた上での活用術だ。これから“転職Eメール”を書く皆さんの、お役に立てれば幸いである。

●“自分自身を整理するきっかけにせよ”

文章を書くというメールの特質が、転職者に与える効果は大きい。経験やスキルを文章化することで、自分を客観的に評価することができるのだ。皆さんから頂いたメールを拝見していても、かなりのレベルまで経験・スキルを整理して伝えてきていることに驚かされる。単にメールを書くというのではなく、まず自分の内面を整理する気持ちで取り組んでみてはいかがだろう。

●“冷静かつ率直に対処できる利点を活かせ”

もしあなたの目の前に座った面接官が、自分より明らかに経験豊富で、高圧的な第一印象だったらあなたはどうするだろう。つい卑屈な態度をとってしまい、聞きたいことも聞けなくなってしまうのではないだろうか。メールなら、企業側の担当者の年齢や顔はわからない。謙虚さや礼節を保った上で、率直な質問を交わすよう心掛けよう。そうすれば企業側も、あなたに対する正直な感想や意見を述べてくる。フェイス・トゥ・フェイスでは遠慮し合ってなかなか切り出せない問題が早く解決するため、非常に効率的である。

●“簡便さゆえの落とし穴にはまるな”

自分自身を文章上で整理しきれないまま、送信ボタンを押してしまう人が多いのもまた事実である。今までの経験・スキルと、これからの希望職がまったく噛み合っていない人が、そのいい例だ。“営業からデザイナーに転職したい”と思っていても、普段はおおっぴらに口には出せない。しかしメールなら気軽だから、ダメもとで聞いてしまえという気持ちになるのだろう。また、今まで職安や求人雑誌で一生懸命仕事を探していた人が、”インターネット転職”という便利なものに出会った途端に安心し、主体性を無くしてしまうことがある。相手から送られてくる情報を座して待つだけという、受け身の状態に陥ってしまうのだ。これも簡便さゆえの落とし穴である。

転職Eメールを生かすも殺すも、皆さん次第だ。ポイントは、文章を書くという過程で自分を充分に整理すること。簡便さに流されず、主体性を失わないこと。Eメールは転職先を決めるきっかけに過ぎないが、皆さんの取り組み方次第で、自分自身を見つめ直す素晴らしい経験になるはずである。