『 等身大の法則 』
ビジネスの現場ではある程度の“はったり”も必要。と言われてきたものの、最近そのはったりが通用しにくくなってきた気がしないだろうか。製品知識やビジネスノウハウの情報共有が進み、取引先も消費者も賢くなった。厳しさを増す現場は、何よりも納得性が重んじられる空気に支配されつつある。
その傾向は、転職場面でも伺える。今回は27歳のエンジニア、Sさんのケースを例に挙げてみよう。最初に断っておくがSさんには、その場限りのはったりを言う気持ちは微塵もなかったと思われる。むしろ彼は転職者の中でも時間をかけて事前準備し、万全の体制で選考に臨むタイプの人だった。
Sさんが特に入念に下準備を行なったのは、面接の想定問答作りだった。もともと口頭での自己アピールが苦手なため、少しでもスムーズにやりとりを行なえるよう、という配慮からである。志望先A社の募集要項と自分の提出書類から考えつく限りの問答を作成し、面接前に練習を繰り返していた。
しかし、その想定問答が皮肉にもSさんの選考落ちを決めたのだ。本来彼はある程度の経験とスキルを持つ人材である。経験をA社でどのように活かし、今後どんな経験を積んで成長・貢献したいかという素直な志望動機を述べれば、採用は固かったはずだ。だがSさんはその肝心の部分を語らなかった。
自分の本心からの希望を語ることはタブーと考えていたSさんは、A社が手掛ける分野の将来性といった自分のプランには直接関らない言葉や、“○○のやりがい”といった抽象的な言葉ばかりを用意していた。一見優等生風だが、当たり障りのない言葉ばかり。経験を積んだ人事にはすぐ見破られる。
後でA社の人事はこう言った。「若手だからとある程度考慮はしたが、やりすぎだ。何故この仕事をしたいか全く見えなかった。こんな理由で落とさねばならないのは勿体ない」と。誰も取り繕ったSさんなど求めていない。自分が本当に言いたいことをどう伝えるか。準備すべきはそこである。等身大の自分を納得性のある言葉で伝えてこそ、ビジネスは成立へと向かうのだ。
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