『 経験活用の法則 』

多くの転職者と接していると、「○○の経験があれば、あの会社には行けそうだ」という考え方に基づいて行動している人が時々目に付く。それはそれで“内定をもらう”ことだけを目的とすれば正しい行動指針と言える。しかし、それだけでは望ましい転職は出来ないのではないかと、私は考えるのだ。

28歳の営業、Wさんの話しが良い例になるのではないかと思う。Wさんは勤めていた中堅食品商社を業績不振から自主退職しており、転職に対しかなり保守的になっていた。我々のオフィスへ来るまでに自己応募で受けた会社は4社。いずれも食品業界経験や顧客開拓経験を求める営業の募集だった。

Wさんが言うには、そのうち2社には内定したのだという。だが、少しでも早く落ち着き先を決めたいと思いながらも、最後の最後で辞退してしまった。「ほっとしたものの、これでいいのかと考えてしまって」とWさんは言う。辞退された企業も「ああそうですか」と素っ気無く了承したのだという。

辞退して良かったですねと私はWさんに言った。彼は“経験を活用して入社できる所”という視点で転職先を選んでいた。だがそこには“経験を活用し今後何をするか”という視点がない。やる気が出るわけがないのだ。

その後私とWさんは何度かのミーティングをし、経験を土台に今後何をするか考えて応募先を決めることになった。Wさんは検討の末、某大手外食チェーンのSV候補を選んだ。前職でも積極的にリサーチ会などを企画していたWさんは、マーケティングや経営に近い場所を目指しつつエンドユーザーの顔も見られる仕事に魅力を感じていた。企業側もWさんのそんな気概を歓迎した。こうしてWさんは、キャリアの幅を広げる希望と共に転職していった。

“経験を活かす”とよく言うが、それは“経験範囲内でできることをする”という意味ではない。経験をステップに自分自身の幅を広げる、求めていた仕事をその手につかむからこそ“活かす”と言うのだ。そして経験やスキルを活かし幅を広げていける人こそが、市場で真に求められる人材なのである。

『 再挑戦の法則 』

一度不採用になった会社への再挑戦はできない、と考えている転職者の方を時々見かける。実際はできないことはない。充分可能だ。むしろそれなりの思い入れを持って再挑戦する転職者は、好意的に面接される場合も多々ある。

不採用から再試験受け入れまでの期間は企業によって違う。中には再挑戦を認めない企業もあるにはあるが、半年から一年程度で面接に応じる企業が主流だ。が、ベンチャー企業や、新興のIT系企業などの中には、「時代の速さに対応するため」に3カ月から半年程度で応じる所も増えている。つまり門戸は少しずつ広がりつつある。

では、どんな人が再挑戦を成功させるのだろうか。31歳の営業、Cさんの例を挙げてみよう。Cさんは通信系ハードメーカーA社の製品にユーザーとして惚れ込み、ぜひ営業としても製品を扱いたいと希望していた。だが、A社の面接を受けた結果は不採用。理由はCさんに業界経験がないことだった。

いつかきっとA社の社員として製品を扱う。Cさんはそんな思いを胸に他企業へ転職した。業界未経験者も採用する、A社の同業他社である。通信系ハード営業としての知識・経験、業界内での人脈…。Cさんはそこで自分に足りない部分を補い始めたのだ。ところがその会社が半年後に傾き始める。

Cさんは考えていた予定よりも早くA社への再挑戦を余儀なくされた。しかし、今度は見事採用。当たって砕けるつもりだったCさん自身も驚いた。A社は元々、前回の面接でCさんの営業スキルと熱意を高く評価しており、業界経験さえあれば採用したいと考えていたのだ。完全に充分とは言えないとしながらも、半年という短い期間内でCさんが得た知識と人脈も評価された。

私が担当する転職者の中には“再挑戦組”が他にも数人いる。それぞれ数年の計画で不足スキルをブラッシュアップ中だ。彼らを見ていると、私はビジネスの基本について考えさせられる。取引を断られた人が課題点を幾度も見直し、最後には成功させる過程と同じなのだ。再挑戦するからには、敗因を克服してくる。どんな世界でも最終的に評価されるのは、そんな人のようだ。

『 敗北の法則 』

私たちの仕事人生には、大なり小なり、避けて通れない“人の壁”が立ちふさがることがある。例えば、中途入社で自分よりできる新人が入ってくることもあれば、転職先の同僚たちが皆優秀すぎて圧倒されることもある。仕事のできる新しい上司が来て、急に要求が厳しくなることもあるだろう。

大手コンピュータメーカーの販社に勤めていたEさんも、大きな壁に突き当たった一人である。Eさんは販社の中でトップクラスに位置するシステム営業であり、手掛けてきたシステム提案実績にそれなりの自信を持っていた。ある時、会社はそんなEさんを親会社に派遣すると決定したのだった。

親会社オフィスを出張所として間借りし、弱い地域への営業強化にあたるのだ。Eさんは、親会社の営業社員たちと机を並べて働くことになった。自分と同じ仕事をする、自分と同年代の営業社員たち…。彼らを見て、Eさんは愕然とした。何もかもレベルが違いすぎた。仕事の進め方からその深みまで。

販社のトップ営業という、Eさんの自負心は打ちのめされた。完全に負けた、とても彼らにはかなわないと一時は弱気になったそうだ。どうせ親会社の恵まれた連中とは違って当然なのだと卑屈になりもしたという。だが彼らの仕事ぶりを見るうち、Eさんの中では敗北感より強烈な思いが膨らんでいった。

「彼らの仕事に少しでも近づきたい」。Eさんは販社に帰ると悩んだ末に転職活動を開始した。私がEさんに出会ったのはそんな時期だった。どんな仕事をしたいですかと聞くと、Eさんはディテールまで詳細に具体的なイメージを説明した。親会社の社員たちの仕事という明確な目標があったからだ。

Eさんはワンランク上のSI企業へ転職して行った。親会社社員との出会いがなければ、彼は恐らく現状の自分に満足し続けていただろう。信じていたレベルより遥に高いものを見せ付けられ生まれるものは、敗北感だけではないと思う。追い付くべき対象、追い付くための方策を勝者は与えてくれる。だから私たちは負けることを恐れたり、避けたりしてはいけないと思うのだ。

『 ハードな仕事の法則 』

仕事がハードすぎて体力的について行けない、というのは転職時によく語られる退職理由である。私も今まで色んな“ハードな仕事ぶり”を聞き、たびたび驚嘆してきた。しかし、先日やってきた25歳のRさんのそれは、群を抜いていた。最初は物静かで少し無愛想な人だとしか思わなかったのだが…。

Rさんが勤めていたのは、ある国際商社である。勤めていたと言っても、職場に顔を出せるのは1年のうち3分の1もあるかないか。どこそこの国で目当ての商品が手に入ると聞けば、必要な機材を船に積み込んで世界中のどこへでも急行する。そんな生活を新卒で入社してから3年続けてきたそうだ。

英語も満足に通じない初めての国で、現地スタッフをかき集め、仕事を割り当て、指揮する。Rさんの立場は“常にぶっつけ本番の現場監督”と言ったところだった。平均睡眠時間は年間を通じて2~3時間。スケジュールが狂うと、船に乗ったまま洋上で1カ月以上カンヅメになることもあるという。

食べ物も行く先々で違う。見慣れない料理ばかりなので、食べられそうなものだけ選んで腹に詰め込む。だからたまに日本へ帰ってくると、さぞ気が休まったろうと思ったのだが、そうではなかった。帰国すると即研修に入り、今度は勉強のために睡眠2~3時間。しかも落第すればクビなのだそうだ。

「だから、もう少し普通の仕事がしたいと思いまして」と、Rさんは淡々と語るのだった。私は頷くしかなかった。最初は無愛想なだけに見えたが、これは腹の据わり方が違うのだと思った。Rさんを面接した企業も同じように感じたらしい。Rさんが志望したのは全く未経験の業種で、先方も始めは渋っていたのだが、面接を終えると一転して「ぜひ迎えたい」と内定が出たのだ。

未経験でも入社できたのは、ぎりぎり第2新卒の範疇に入るRさんの年齢のせいもあったろう。しかし企業をその気にさせたのは、過酷な環境の中でRさんが培ってきた、プロジェクトリーダーとしての素養である。ハードな仕事の渦中に居る時は、なかなかその意味が見出せない。だが他の転職者の皆さんを見ても、振り返れば必ず何かが身についているものだ。

同じ辛い仕事でも、やっておいて良かったと思えるような働き方をしたい。私も今、心からそう思っている。

『 ジョブチェンジの法則 』

未経験の職種へ転職することを“ジョブチェンジ”と言う。未経験者も可の企業が増えてきたとはいえ、まだまだジョブチェンジ希望者には世間の風当たりがきついことは否めない。しかし、こんなケースが実現することもある。

ERPの導入を担当するエンジニアだったKさんは、以前からの夢だった経理への転職を希望していた。ところが色々な人材紹介会社を回ってみたものの、逆に前職と同じ仕事を勧められてしまう。「未経験の経理は絶望的。売れ筋のERP経験があるのに勿体ない」と。それでもKさんは諦めきれず、紹介会社をこつこつ訪ねていた。私が彼に出会ったのはそんな時だった。

最初は、私も正直どうしたものかと思った。だがKさんの意志は固い。そこで、企業への売り込み方を変えてみようということになった。ERP導入に際し経理の業務フロー設計も担当していた経験を活かし、“ERPもわかる経理の卵”という職種を私たちの方から企業に提案してみようと考えたのだ。

幸いなことに、これぞという募集があった。自社内ERPの入れ換え導入をする技術者と、経理スタッフ、各1名の同時募集である。私はその企業に、両職種を合体させKさんを採用しないかと提案した。経理部所属として迎え、ERP入れ換え担当からゆくゆくは経理1本のスタッフに育てられないかと。

初めは企業側も迷っていた。しかし面接を終えると、話はとんとん拍子に進んでいった。企業側は以前からシステム部門と経理部門の連携を密にする必要性を感じており、Kさんはその点で経験・人間性においても橋渡し役として最適と判断されたのだ。こうして経理の卵Kさんがついに誕生した。

Kさんは今は入社日を待つばかりである。私は、人材紹介会社を何社回っても諦めなかったKさんの熱意が、結局は我々エージェントと企業側を動かしたのだと思っている。ジョブチェンジには確かに困難がつきまとう。だが、チャンスが見つからないのなら回りの人間を巻き込んでチャンスを作らせる。そんなパワーが必要なのだと思う。新しいことを始める人なら、誰にでも。

『 嘘の法則 』

企業の人事担当者は、嘘を見破ることに長けている。何処の誰とも知れない初対面の人物と毎日のように向かい合い、仲間にするかしないかという基準で観察するのだから、上手くならないわけがないのである。私がよく話をする某企業の人事Mさんは、80%ぐらいまでなら見破れると豪語していた。

さて、このMさんだが、転職者の話が嘘だとわかっても追求したりはしないそうだ。人事になりたての頃は、根掘り葉掘り突っ込んで、つじつまの合わない事を暴かなければ気が済まなかった。だが最近では嘘は嘘として冷静に“評価”するようになったのだという。ある時Mさんは、「もちろん嘘臭いなと思った時点でマイナスですよ」と前置きして、こんな話をしてくれた。

ある時Mさんの会社で、正社員登用前提のアルバイトを募集した。半年の区切りで正社員になるかならないかを本人と会社の双方が選択する条件である。すると、正社員志望で現在フリーターをしているという人が多数面接にやって来た。Mさんは1日5~6名、のべ50名の志望者と面接したそうだ。その中で彼は、思わず唸るような嘘をつくフリーターに出会ったのだという。

その志望者は、「なぜ今まで正社員にならなかったのか?」という問いに、こう答えて見せた。自分は、実際に働いてみないと会社や仕事の善し悪しは判らないと考えている。正社員になることは一生をかけるということなのだから、実際に体験して決めたい。しかし、今まで色々と手を尽くして探してはみたが、自分の志望する業界ではそんな募集にお目にかかれなかった…。

嘘っぽい、とMさんは思いながらも、よく考えてあると感じたそうだ。特に、正社員という立場の安定性ではなく、思い入れを強調しながら理由に結び付ける点。体験してから決めて欲しいという会社側の募集意図を充分に理解した上で、話にからめてある点。「こちらの意図を見抜いた上で、何をどういう方向から話すべきか考えてあるんですよね。上手いなあ、と思いました」

普通なら、ありのままを正直に答える人だけを採用候補にする所だろう。だが、Mさんはその人も採用したそうである。5年経った今、彼は営業部門でもトップクラスの成績を納める人材に育ったそうだ。「結局何を言うにしても、相手の思いを考えながら言っているかどうかって事だと思うんです」とMさんは言った。私も、そうだろうなと同感したのだった。

『 やる気の法則 』

転職市場に関っていると、“やる気”という言葉をそれこそ毎日のように耳にする。企業は“やる気のある人が欲しい”と言い、転職者は“自分にはやる気だけはある”と言う。“やる気”という言葉が転職市場にあふれていると言ってもいいだろう。こうも“やる気”“やる気”と聞かされていると、“やる気”という言葉が単なる枕詞に過ぎないようにも思えてくる。

なぜなら、その“やる気”の中身が、えてしてさっぱりわからなかったりするからだ。「自分にはやる気がある」と言われれば、こちらは当然「何をどうやる気ですか」と聞き返す。しかし、自分が何に対して“やる気”になっているのかさえわからない“自称やる気に燃える人”が多いようなのだ。

本当に“やる気”があれば、“やる気”なんて言葉は不要だ。この前、ある転職者の方とお会いしたことで、私はますますそう考えさせられたのだった。彼は、Tさんという51歳の元営業部長である。最初にTさんが我々のオフィスを訪ねてきた時、私は正直、Tさんの転職は難しいのではないかと思った。高齢での転職に加えて、Tさんが全く畑違いの分野を志望していたからだ。

「高齢者にネットを普及させる仕事をしたいのです」とTさんは言うのだった。趣味の釣り情報を得るためにネットを始めたTさんは、将来身体の自由がきかなくなっても、パソコンを使えれば生き生きと人と交流できることに気付いた。自分のような高齢者の仲間をもっと増やしたい。高齢者の自宅や老人ホームを廻ってパソコン環境のレンタルや販売をし、自分のような同年代の者がインストラクションをし、とTさんは事業の青写真まで描いていた。

自分で事業化することは資金の問題でできない。しかるべき場所に身を置いて経験も積みたい。ということで、Tさんはネット系の企業を志望していた。果たしてそんな希望を受け入れる企業はあるのだろうかと思いながら、私はいくつかの企業に打診したのだった。あった。Tさんの“事業計画”に興味を示したあるベンチャーが、ぜひTさんに会いたいと言ってきたのだ。

私は同席できなかったのだが、Tさんとそのベンチャー代表の面接は、さながら事業計画会議のようであったという。後で代表は私にこう言った。「Tさんの“やる気”にほだされました。試験的にですが、一緒にやってみようと思います」。Tさんは自分に“やる気”があるとは一言も言わなかった。自分がやりたいことを見据え、実現に邁進しただけだ。そんなTさんの姿が、結果的に“やる気”を伝えたのである。その時私は思ったのだった。“やる気”とは、具体的な何かを、自分ではなく相手が評するための言葉なのだと。

『 ブランクの法則 』

人材エージェントである手前、私は日頃から転職者のみなさんにこう言い続けている。退社から転職活動開始までのブランクは極力無くすように。できれば就業中から活動を始めるように。空白期間が長いほど不利になるのです…と。しかし、長期の空白イコール絶対的に不利とは一概に言えないのだなあと思う出来事が最近あった。結局その人次第なのだと思わされる出来事が。

話の主は、37歳のカスタマーサポート係、Oさんである。Oさんはとあるソフトメーカーを退職後、転職活動を始めるまでに1年間のブランクがあった。その間何をしていたかというと、特に何もしていなかったそうだ。朝、奥さんが働きに出た後、家事を済ませて子供と遊ぶ。奥さんが休みの日は家族で海や山へ行く。“主夫”と言えば聞こえはいいが、プータローである。

私は最初、Oさんの話を聞いて頭を抱えた。断っておくが私個人は、Oさんの1年間の暮らしぶりについて「思い切って家族との充実した時を持つのもいいものなのだな」と感じる。だが“転職市場”というモノサシでOさんの1年間を測ってみると、答えは“かなり絶望的”になってしまうのだ。企業の視点で見れば、Oさんはスキルが停滞した就業意欲の薄い人、なのだ。

だがOさんは、それをわかっているのかいないのか、常に飄々としていた。何社かの書類選考に落ち、理由が“目的の認められない”ブランクのせいだと告げられる。普通ならその時点で“取り返しのつかないことをした”と自信を失ったり委縮してしまったりするものだ。が、Oさんは違った。あーあ残念ですと言いながら、にこやかに次の企業へ送る経歴書を持ってくるのだ。

結果は意外にあっさり出た。Oさんのことをある大手ソフトメーカーに伝える時、私は彼のあまりにも飄々とした様子をふと漏らしたのだった。するとその会社が、ぜひ会ってみたいと言いだしたのだ。さっそく面接がセッティングされた。面接では、役員が総出でOさんのブランクについて厳しく問いただしたのだが、それでも彼のマイペースを誰も崩すことはできなかった。Oさんはその企業に、サポート室チーフ職として採用された。

「決して自分を見失わない。あれこそサポート職の鑑でしょう」と、面接を終えた人事はOさんに感服していた。そうなのだ。Oさんは不利な状況でも決して平常心を失わなかった。“意味のない”と決め付けられたブランクを後ろめたく感じている様子もなかった。ブランクの1年間も含めて、どんな結果が出ようと自分は満足している、後悔しない、と彼は言っているように見えた。結局、ブランクの内容は問題でないのかもしれないと私は思った。どんな道を歩んできたのであれ、自分自身がそれをどう振り返るかなのだと。

『 人脈の法則 』

人材コンサルタントとは、ある種“人脈”で仕事をする職業である。企業のトップや人事担当者、社内の同僚コンサルタント、そして転職者のみなさん。これらの人脈が深く、幅広くなるほど、私はいい仕事のできる環境を持っていると言えるわけだ。そんな仕事上の特性もあって、転職者のみなさんから「良い人脈を形成するには何をすればいいか」というご質問を時々頂く。

転職やキャリアアップに人脈は欠かせないものだ。しかし人脈を“作ろう”とする人は、思わぬ落とし穴に気をつけてほしい。いきあたりばったりに人と会いまくるだけなんてことは、もちろんみなさん避けているだろう。しかし、将来のプランに即した人脈を作ろうとする周到な人が陥りがちなパターンもある。“人脈”ばかり意識して、かえって人を遠ざけてしまうのだ。

他人をあなどるなかれ。たとえ相手とギブアンドテイクの関係を築けると自負していても、下心ありの恩着せや接近は、たいてい相応の悪印象を伴って見抜かれてしまうものだ。また、あからさまに選んで近づくと、そういう人間なのだと軽く見られがちだ。では、どうやって自分に必要な人脈を形成すればよいのか。私の身内の例になるのだが、ご紹介してみることにする。

今年社会人2年目を迎えた私の甥J君は、就職活動の際、土壇場まで就職先が決まらず周囲をやきもきさせた。いったんは食品メーカーに決まっていたのだが、内定を辞退したのだ。在学中からインターネットに慣れ親しんでいたJ君は、文系ながらIT系のエンジニアになりたいというのが本心だった。周囲も、そしてJ君本人も「今からでは無理だ」と半分諦めていたのだが…。

思いがけない所からJ君の求める就職先が現れた。それはJ君が2回ほどしか会ったことのない人からの紹介だった。J君のネット仲間である。ネットでの付き合いは深いが、お互いの肉声は殆ど知らない。なのに、取引先にJ君を強く推薦すると申し出てくれたのだ。責任の重い申し出だ。今後の取引でJ君と仕事をする可能性もある。ではそれを承知の上で、なぜ。「J君のような信頼も期待もできる人物と、ぜひ仕事上でも付き合いたいのです」と、その人はJ君のネットでの印象にも触れた上で、彼の両親に語ったそうだ。

J君は今、生き生きと働いている。J君の出来事で私は改めて感じたのだった。人脈の基礎となるものは、私たちが出会うべくして出会う人々の中にすでに存在する。面接という刹那の場面でも「先日泣く泣く不採用にした人を、ぜひ他部署の採用に紹介したい」という申し出が入ることがある。何が人を動かすのか。何が人脈を形成するのか。それは“人脈を作る意志”ではなく、私たちが生来持つはずの意志、つまり心である。たとえ能力や情報の提供に長けた人物でも、この意志がなければ、本当の人脈は築けないと思うのだ。

『 主導権の法則 』

何かの用事を、言われてからやるのと言われる前にやるのとでは、明らかに印象が違う。頭ではそうとわかっていても、体はなかなかついていかないものだ。かくいう私も、その部類かもしれない。しかし、多くの転職者と会っていると“なぜここまで!”と叫びたくなるほど手回しのいい人々がいる。その多くは、なぜかコンサルティングファーム出身の転職者たちである。

彼らの転職活動のやりかたは、明らかに普通のそれとは違う。Rさんを例に話をしてみよう。Rさんは会計事務所系コンサルファーム出身の32歳。まず面談室で初めてRさんと対面した私の手元には、彼の経歴書と自己PR書、英文レジュメがそれぞれ4通あったのだった。応募先企業のニーズ別に経歴書を変えるのは基本だが、それが初めから用意されていることに私は驚いた。

Rさんは4通それぞれの内容を説明しだした。4通のうち3通は、すでに自分が転職先候補として考えている3社宛のものであること。しかしその転職先候補のみにこだわるつもりはないこと。だから残り1通は、人材紹介オフィスがRさんの経歴の全体像を把握し、的確なオファーを行えるように書いたのだということ。そしてRさんはさらに1通の書類を取り出したのだった。

「私自身の希望書です。メールで多少の内容はお伝えしましたが、これをいきなり送付するのは失礼かと思い、今日お持ちしました」。そこにはRさんの転職動機、転職動機から引き出した具体的な希望会社のイメージが、簡潔に、優先順位をつけて整然と書かれていたのだ。後はRさんの補足説明を聞くだけだった。気が付くと私の頭にはその内容が叩き込まれてしまっていた。

そして面談も終盤に近づいたころ、Rさんはまたもや1枚のメモを取り出した。自宅と携帯の電話番号、自宅・WEB・携帯のメールアドレスが書かれている。「複数の連絡手段を用意いたしましたので、どうぞよろしくお願いします」。唖然としたままの私に、にこやかに挨拶してRさんは帰っていった。彼が第一志望先への入社を決定したのは、その翌翌週のことだった。

別のコンサルファーム出身者に、私は聞いたことがある。あなた方は、なぜそんなに用意がいいのかと。「先回りして考えるクセがついちゃってるんです。仕事柄ですかね」。なるほど、と私は思った。考えてみれば転職も、先回りして考え用意するほど有利になる。いや、本来ならコンサルうんぬんでなく私たち職業人全員が、先回りできる人であるべきなのだろう。先手先手で一瞬の間に主導権を握ったRさんを思い出し、私はそう自省したのだった。

『 成功するための3つの法則 』

「なにか即効性のある“転職のコツ”みたいなものは、ないんでしょうかね」このコーナーを始めて随分経つが、以前から時々こんなリクエストを受けている。積み重ねが必要なキャリアやスキルに関係なく、転職という段になってから準備しても間に合う“必勝法”があれば嬉しいのだがと。最近、別の角度から考えていて気付いた事があったので、今回書かせて頂くことにする。

別の角度から考えていて、というのはこういう事だ。数えきれない程の転職者を見てきて常々思っていたのだが、転職を成功させる人の“種類”が、ここ数年でかなり変化してきているのである。高いスキルや充実したキャリアさえ持っていればOK、というわけではなくなってきているのだ。苦戦する“エリート”を尻目に、ローキャリアの人があっさり転職して行ったりする。

では、キャリアやスキルの別なく転職を成功させる秘訣とは何なのか。これがすなわち、みなさんの求める“必勝法”にあたるではないかと思う。私が転職者を見てきて気付いたポイントは3つある。ひとつは“周到な準備”、もうひとつは“決断する勇気”、そして“運を見逃さないアンテナ”である。

例えばソフト開発者のJさんは、自分のスキルに相当する分野の事業が、業界内で拡大するという情報をキャッチしてから転職活動を始めた。これは“運を見逃さないアンテナ”。そして我々のオフィスを訪ねた時には、面接の草案まで周到に準備していた。志望企業各社を入念にリサーチし、自分のスキルのどの部分を重点的にアピールすべきかを事前に決めていたのだ。

Jさんの周到さは着実に実を結び、4社の内定が集まった。それぞれ仕事環境も待遇も違うため、実際は迷う所である。だがJさんは、決断を先送りにすれば事態が悪くなることも承知していた。待遇は当初の目標に満たないが、仕事に魅力ある1社に絞り再度の交渉。他の内定を全て白紙にしたことが結果として好印象となり、入社時には待遇も多少上方修正されたのだった。

いかがだろうか。Jさんがやったことは、決して高いスキルの積み重ねが必要なことではない。彼も平均的なキャリアを持つごく普通の転職者である。自分の経験や資質を急に変えるとなると容易ではないが“姿勢”は幾らでも変えることができる。これら3つのポイントは、そうした意味で即効性がある。さらにこれらは、転職のみならず私たちの仕事全てに言えることなのだ。明日から始めれば、ビジネスそのものにいい影響を与えるはずなのである。

『 未経験の仕事の法則 』

未経験の仕事にどうしても挑戦したい。そんな熱意に燃える転職者のみなさんと、私は数限りなくお会いしてきた。新しいことを始めようとする人々は一様にやる気に満ちているものだ。私が出会った未経験転職志望者も、なげやりな人や後ろ向きな人は一人もいなかった。ただ、今は未経験者の採用枠が企業側に殆どないというのが実情である。先々は更に少なくなるだろう。

では私たち社会人は、新しいことに何ら挑戦することができないのだろうか。私は、決してそうは思わない。先日出会った転職者Fさんを例に説明していこう。彼は29歳の元人事マンで、ある中堅企業D社の企業広報職に未経験から挑戦したいと希望していた。企業側が出していた採用条件は“プレスリリースの人脈がある人物”“製品知識がある人物”等々だったのだが…。

Fさんには業界知識はあったが製品知識はなく、ましてや人脈など望むべくもない。しかもFさんの他に数人の志望者が競合しており、彼らは企業側が出した条件に部分部分で適合していた。状況は圧倒的にFさんに不利だった。なんとか面接にはこぎつけたものの、どうも話が弾まない。“やはりダメだったか”と私もFさんも思った。ところが、思わぬ所から道が開けたのだ。

Fさんが何の気なく話した趣味に、D社側が強い興味を示したのである。Fさんはネットにはまっており、独学で勉強しサイトを運営していた。それがかなりの集客を果たしたことから人事業務にもネットを駆使し、成果を上げていた。「ゆくゆくはそんな方が欲しかったんです。企業広報にネットを採り入れなければ立ち遅れるという焦りが当社にはある。あなたにぜひやってもらいたい」。未経験者のFさんが、他の経験者に勝利してしまったのだ。

Fさんの場合はたまたま見つかったという例だが、未経験者の個人的な努力による成果が企業のニーズと適合し、採用に至るケースはままある。ただここで大切なのは、単に勉強している、努力しているのではなく、Fさんのように成果を形で出しているかということだ。誰でも努力はできるし、やる気も出せる。そこから一歩抜きんでるにはどうするかを考えねばならない。

特にネットビジネスの世界などでは、入ってくる者の多くが“未経験”であることから、プライベートな部分で上げていた成果が非常に重要視される。実際に採用される未経験者を見ていつも思うのは、彼らは入社前からすでにプロである、ということだ。本当にその仕事をやりたいのであれば、会社で教えられるのを待つ必要さえないのだ。ただ始めればいいのである

『 良い待遇の法則 』

我々サラリーマンの懐が急速に寒くなっている。私も仕事柄様々な業種・年代の人々の年収を知るのだが、平均して下がってきていることをやはり実感する。そしてこれも最近感じることなのだが、転職に際し特に収入面にこだわる人が、以前にもまして目立ってきたように思う。私とて家族を養う身である。まず収入が気になる気持ちはわかるし、少しでも良い暮らしがしたい。

数千円でも良い待遇で転職するにはどうすればいいのだろうか。私がよく目にする失敗は“まず理想の収入ありき”で会社探しをしてしまうケースである。極端な人は、求人情報を見る時も給与欄を片っ端から追ってしまう。また待遇交渉の際これと決めた理想額を強弁に主張してしまい、内定を逃がす。

“収入”が頭を占めるばかりに、皮肉にもそれに振り回されてしまうのだ。

そんな人に面談で出会った時、私は“視点を変えてみる”ことを勧めている。非常に参考になるWさんという方の事例があるので、ご紹介しながら説明してみよう。Wさんの前職は、外資系機械メーカーのセールスエンジニアである。その企業で扱っていた製品が、先行きどうも市場で生き残っていけるとは思えない。Wさんはそう考えて、他業種への転職を希望していた。

幸い前職で相当の業績を上げていたこともあり、Wさんの内定は順調に決まっていった。ただ、やはり他業種への転職ということがネックになり、内定は得るもののしっくりこないのだ。内定企業の中には社員数何千、何万人の巨大企業もあった。だが配属先がWさんの技術知識を活かせない営業部門だったり、逆に営業手腕を発揮できないソフト開発部だったりするのだ。

そんな時、あるベンチャー企業P社から声がかかった。P社はIT系のパッケージ化されたシステムを開発販売しており、Wさんの経験業務が探していた人材にジャストだと言うのだ。Wさんは前職で機械に組み込まれていたソフトの企業向けカスタマイズも視野に入れた営業を行なっており、そんな経験を持つ営業がどうしても欲しかったのだ、とP社は言うのだった。

WさんはP社への入社を決めた。P社は社員10名の新興企業で、他の内定先に比べれば未知数の部分はある。Wさんは決定理由を私にこう話してくれた。「私を一番必要としてくれる企業だと感じた」と。私は彼の言葉にこそ今回のヒントがあると思う。なぜならWさんに一番高い年収額を提示したのは、他のどこでもないP社だったのだ。厚待遇は、自分が真に必要とされる場所にある。心から求めてくれる企業を探せば、待遇もおのずとついてくるのだ。

『 自己分析と不安の法則 』

商談や部内調整といった日々の交渉事なら、仕事の中でいくらでも場数を踏める。数をこなすうちに、自己演出や会話の技術が否応なく鍛練される。しかし就職面接は、残念ながら場数を踏めるものではない。コツをつかめないまま手探りで臨むため、いきおい誰もが不安になる。不安を感じると、人はどんな行動をとるか。過剰なリスクヘッジをしがちになるのである。

経歴書に書く経験業務を誇張したり、あれもこれもできますと面接で口走ってしまったり。ついつい思わず、の後で後悔した人を、私は無数に見てきた。そして“ついやってしまう”気持ちもよくわかる。私とて、普段は面談をする側だが、される側の経験はやはり少ない。経験がない分、自信もない。この自信のなさから来る虚飾の衝動を、我々はどう防げばよいのだろうか。

Lさんという、非常に感嘆させられた例がある。その当時25歳だったLさんは、インターネット関連の技術者として3年程度のキャリアを持っている人だった。ネット関連のいろいろな技術に手を染めているものの、どれも突き詰めては経験していない。スキルが幅広い分、同業十数社から出ていた募集条件の殆どに適合したが、決定打となる専門性にはいまひとつ欠けていた。

しかしずば抜けていたのは、Lさんの経歴書の書き方だったのだ。Lさんは応募する企業のひとつひとつに、それぞれ違う経歴書を書いていた。嘘を書くという意味ではない。幅広いスキルを武器に、企業の募集条件に合わせて“重点的に書くスキル”をチョイスしたのだ。それを詳しい一覧表にまとめ“自分にできる仕事の範囲はどこからどこまでか”を限界も含め明確にした。

この経歴書でLさんは次々と内定を増やしていった。“あれもこれもできる”という経歴書より、重点を選ぶことで一社一社に強くアピールする。さらに、できること・できないことの区別がはっきりしているため、単に“できる”と言うより、Lさんの入社後のイメージがつきやすい。決して経験豊富とは言えない自己像を虚飾することなく書きながら、切り口を変えて見せる・できる範囲を明確に見せるという方法で、Lさんは転職を成功させたのだった。

自分の不足を補う方法は、ハッタリや虚勢だけではないのだ。ありのままのスキルもLさんのように必ず何通りかの“切り口”つまり使い道がある。それが経歴を誇張するよりも強く信頼できるリスクヘッジになるのである。転職といった慣れない経験は、誰でも不安だ。だが不安は覆い隠すのではなく、解消しようと努力するものだ。自分を深く省みてこそ、それができるのだ。

『 ネガティブな転職理由の法則 』

前向きで立派な転職理由を最初から語れる人は、ごく少数である。大多数の 転職者が、会社や仕事の何かが嫌だという理由で転職を考え始めるからだ。 あれが嫌これが嫌という転職理由は、悪く言えばネガティブだ。中には驚く ほど小さなことを嫌がって会社を辞めてしまう人もいる。しかし私は“ネガ ティブな転職理由”も要は考え方次第だと思う。全てが悪いものではない。

27歳の営業マン、Tさんの成功例をもとに話そう。Tさんの前職は、ある老 舗メーカーのルートセールスだった。古くからの固定客を数社担当し、“良 いつきあい”を維持していくのが至上命令である。取引高も取引頻度もほと んど変動せず、とくべつ売り込みをすることは不要。取引の際いかにミスを せず、顧客の信頼を損なわないかが、この営業職のポイントだった。

人によっては“こんなじっくり型の営業こそしたい”と言われる仕事であ る。だがTさんは、性に合わないことこの上なかったらしい。ミスをしなけ れば一定の売上は維持できるが、もはや当たり前になってしまい、誰からも 評価されない。責任感でそこそこの成績を保ってきたTさんだったが、経験 を積むほど、評価や成果のはっきりしない仕事への不満がつのっていった。

もしも、これらの不満を消化しないまま抱えているだけだったら、恐らくT さんの転職は成功しなかっただろう。しかしTさんは働きながら、では自分 はどんな仕事を求めるのか、どんな仕事が向いているのかと自問自答し続け たのだ。「本当は新規開拓のみをやりたいが、今までの経験を考えると新規 開拓ありのルートセールスが向いていると思う」と、Tさんは不満を次のス テップへの具体的な希望へと変化させ、我々のオフィスに現れたのだった。

“今の仕事が嫌だ”と思っても次の仕事は見えないが、“ではそれを踏まえ てこんな仕事がしたい”と考えてあたれば、先に進めるものである。Tさん が内定したのは、数種のブランドを新たに立ち上げる老舗の食品メーカー だった。ルートセールスを基本に、同時に新ブランドの顧客開拓も行なって ほしいという企業のニーズが、Tさんの希望や経験としっくり合致したのだ。

人は誰しも、なにかしら不満を抱えて生きている。そのまま他人に言ったと ころで、同情はされるかもしれないが、聞いてもらって終わり。何も産みは しない。転職や仕事も同じことである。不満なら、次にどうするか。不満を 出発点に、自分は何ができるか。納得性ある具体案を提示して初めて、他人 も企業も振り向くのだ。不満に縛られるのではなく、その先を見てほしい。

『 何を望むか、の法則 』

会社や社会というものを知った上で職探しをするのは、大変なことである。こんな会社がいい、こんな仕事がいい、こんな待遇がいいと、細かな希望がきりもなく浮んできて、どれもが譲れないことのように思えてくる。“会社選びは住まい選びと同じ”とも言う。希望に優先順位をつけ、ポイントを数点に絞るのだと。しかし、その優先順位づけがまた難しい作業なのだが…。

Oさんという27歳の女性を例にあげて話をしてみたい。Oさんの前職は、外資系機械メーカーでの営業アシスタント。同僚のマーケッターの仕事を手伝っているうちに、どうしてもマーケティングをやりたくなった、というのがOさんの転職理由だった。そして、かなりの数の面接を受け、ことごとく落ちていた。マーケッターとしての実務経験と、技術知識がないからである。

我々のオフィスに登録した後もマーケッター募集と聞くとこまめに来訪していたOさんだったが、転職先は決まらないかに見えた。「志望を営業アシスタントに変えては」と、私もOさんに提案していた。事実、その面接を受けると、どの企業も彼女をぜひ欲しいと言うのだ。中には年収アップを提示する大手企業もあり、Oさん自身もその誘いには揺れ動いていた。

しかし彼女が悩んだ末に出した答えは“マーケッターになりたくて会社を辞めたのだから、志望は変えない”。魅力的な内定も全て辞退し、以前どおりこつこつと面接に足を運び続けた。そうこうするうちに、努力が報われたのか、マーケティングアシスタントでなら採用してもいいという企業が現れたのだ。Oさんが在籍していた外資系の競合にあたる国内メーカーである。

ただ、そのメーカーの社風は、Oさんが経験してきた外資系の自由闊達な社風とは違うのだった。小さなことにも稟議書をあげる仕事の進め方に馴染めるかという問題があった。もうひとつ自宅から1時間半かかるという通勤時間の問題もあった。だがOさんは、その企業への入社を決意したのである。この転職の中で一番に優先すべきものは何かが、Oさんには見えていたのだ。

後でOさんは、私にこう語ってくれた。“最初は絞りきれないほど希望があったが、たくさんの企業をまわるうちに、自分の本当の望みが見えてきた。それがマーケティングという仕事内容だったのだ”と。いかに優先順位をつけて希望をかなえるか。その答えは、Oさんの言葉に凝縮されていると私は思う。情報をただ眺めているだけでは、自分と対峙できない。転職の現場に足を運び、転職市場に身を置いてこそ、本当の自分が見えてくるものなのだ。

『 自信の法則 』

失業率の上昇に伴って、求職者が職場探しに費やす期間も長期化している。人材紹介オフィスで私が日々接する転職者の皆さんも、はっきり二極分化が進んでいるように感じる。短期間で幾つもの内定を得る人と、数カ月や半年の長期戦を余儀なくされる人だ。前者は、市場ニーズのタイミングにもよるが、経歴もスキルも飛び抜けたいわゆる“ビジネスエリート”が中心となる。

しかし“ビジネスエリート”と呼ばれる人はほんの一握りの人種だ。我々の多くは、その日その日の仕事をこつこつと積み上げてきた、ごく普通のビジネスマンである。自分なりに頑張ってきたのに、1カ月探しても2カ月探しても、経験を活かせる仕事に出会えない。自分は無能な人間なのだろうか。そんな重い胸のうちを、私も時々、苦戦する転職者から打ち明けられる。

そこで今回は、“普通のビジネスマン”へのエールを込めて、Rさんの話をしてみたい。Rさんは、転職先が見つかるまで3カ月もの期間を要した。彼の前職は、中堅マーケティング会社でのデータ管理。マーケティングを理解しているが本職のマーケッターには及ばず、データ処理に精通してはいるが巷のプログラマーやSEには及ばず、悪く言えば宙ぶらりんな経歴だった。

転職活動中、Rさんの心情も他の転職者と同じく揺れていた。「1社の面接さえ受けられない。この先どうなるんでしょう」。だがRさんが少し違ったのは、書類選考で落とされ続けても“経験を活かせる仕事”にこだわり続けたことである。たとえ図抜けた経験でなくとも、自分のしてきた仕事はマーケティング分野のデータ処理だ。だからそのままアピールするのみだ、と。

オファーは突然来た。Rさんの経歴に目を留めたのは、世界有数のネットビジネス企業だった。まだ市場調査部門が手薄なその企業は、膨大なマーケットデータを解析する技術者を求めていたのだ。企業側もRさんも、お互いのマッチングぶりにただただ驚いた。内定まで1週間とかからなかった。辛い長期戦は、Rさんも予期せぬ年収大幅UPという形で幕を閉じたのだった。

確かにRさんは幸運だったのかもしれない。しかし、運を逃さなかった彼の

特徴に注目してほしいのである。自分の経験を卑下するでも誇張するでもなく、率直に提示し続けた。上手く物事が運ばない時、私たちは自分自身までも疑ってしまいがちだ。得てきたものが凡庸か希少かは結局のところ関係ない。流されず、等身大の自分を見ることなのだ。冷静に、自信を持って。

『 キャリアプランと資格の法則 』

今までたびたび資格とキャリアプランの関係について、ここでお話ししてきた。資格とは、ビジネスマンがそれぞれの分野で培う実務スキルと融合して初めて、その効力を発揮するものなのだと。最近、そのことを改めて思い起こさせる出来事に出会ったので、紹介してみたい。28歳のKさんの話である。彼が取ったのは国家資格ではなく、学歴の範疇に属するMBAだ。しかし取得までに至る過程と、その活かし方はきっと皆さんの参考になるはずだ。

Kさんは高校卒業後、大学には進学せずすぐに働き始めた。幾つかの仕事を経験したのだが、22歳の時、知人の紹介で中堅チェーンストアに入社。本部の経営に参画するポジションまで昇格していった。若くして経営幹部という地位を確保したKさんだが、しかし彼はそこで初めて壁にぶつかった。会計や経営の仕組みが深く理解できない。何事も実践と考え働いてきたが、皮肉にも実践の成果が実を結びはじめた所で、学問の必要性を痛感したのだ。

もう一度勉強し直したい。悩んだ末にKさんは某国立大学の2部に入学し、経営学を専攻した。責任ある職務に就きながらの2年間は、周囲が思うより遥かに大変だったに違いない。だがKさんはそんな日々を過ごすうち、もっと経営について学び、一生の仕事にしたいという思いを強めていった。卒業後Kさんは思いきって会社を退職。MBA留学のために渡米したのだった。

私がKさんと会ったのは彼の帰国直後のことだったのだが、まず、その職務経歴書に驚かされた。彼は全く未経験の業界を志望していた。だが、そこで役立つ自分の経験は何か、MBA取得の過程で学んだことの何が活かせるのかを、明確に自己分析していたのだ。彼が私に語ってくれたキャリアは、実際の仕事と学問の中で自分は何を学び、またそれをどのように仕事に役立ててきたのかという非常に迫力のあるものだった。人材紹介会社に登録する転職者の中で、MBA取得者は決して珍しい存在ではない。しかしKさんの人材としての魅力は群を抜いていた。彼の元には、言うまでもなく何社もの内定が集まったのだった。

切り札的な資格を取るということは、要はこういうことなのだ。目指す目標は何か。そのために自分は何をすべきか。自己分析しキャリアプランを立てた先に見えてくるものが、資格取得というワンステップである。資格が人を活かすのではない。取った人がそれを活かしてこそ、資格は意味を持つのだ。

『“転職のための転職”の法則 』

人材紹介オフィスに来る人の中には「この会社に転職したい」と、希望の企業名をはっきり口にする人も多い。スキルの問題で採用試験さえ受けられない人、惜しいところで不採用になる人、とんとん拍子に内定を得る人など、結果はいろいろだ。しかし、興味深いのはその人々の中で、転職への考え方が二手に分かれることだ。“受けた時点でだめなら諦める”人と“不合格でも、最終的に希望を叶えるためにはどうすればいいのかを考える”人である。

例えば、25歳のエンジニアDさん。彼は汎用系の開発を担当してきたのだが、オープン系の仕事をしたいとずっと考えていた。しかし西暦2000年問題対応で、現職が多忙すぎる。新しいことを学べないし、独学する時間もとれない。ゆくゆくは業界トップクラス企業のA社でオープン系の開発に携わりたいと考えていた彼は、業を煮やして私たちのオフィスへやってきた。

Dさんを面接したA社から返ってきた返事は、不合格。「素地は認めるが、オープン系の実務経験がないこと、語学力不足である点が厳しい」とのことだった。不採用理由を伝える私に、Dさんはなるほどと頷いた。「自分に足りないものが明確化しただけでも収穫です」。そして彼は私にこんな提案をしてきたのだった。「一段階、別の企業に転職しようと思うのですが」。汎用系もオープン系も扱う企業で経験を積み、A社の合格ラインに足りないスキルを補いたいと言うのだ。最終目的地の転職先を目指すための転職である。

いかがだろうか。志望先に本当に入社したいのであれば、Dさんがとったような方法もあるのだ。私は常々不思議に思うのだが「この企業にどうしても入りたい」と熱く語っていたのに、不合格になるとあっさり希望を変えてしまう人が少なくない。どうして、簡単に諦めてしまうことができるのか。確かに体裁やイメージだけで志望するのなら、特定の企業に執着した所で何も産みはしない。だが、その企業の環境があるからこそできる仕事に執着するのなら、志望に添ったスキルを目指す行程は、立派なキャリアプランとなる。

Dさんは今、転職先企業で経験を積みながら、語学を特訓中である。Dさんのやり方を真似ろと言うわけではない。しかし、もし本当に手に入れたいものがあるのなら、目的にふさわしい人間になる努力はしてもいいはずなのだ。

『 不利な転職の法則 』

そもそも転職とは、数をやればやるほど不利になっていくものだ。1回ならまだ安全圏内。それなりの説明さえつけば、2回でもぎりぎり何とかなる。しかし3回、4回となると…。次を探すのは、至難のワザになってくる。人間関係を上手く結べないのでは?責任感が薄いのでは?。転職回数の多い人々は、企業側からの信用度が著しく低いのだ。書類選考にしても面接にしても人間対人間のことなので、信用度が低いというのは致命的なことである。

しかしそうは言っても、やってしまったことは仕方がない。仕事がなければ食っていけない。なんとか活路を見いだしていくしかないのだが…。そこで、Jさんという転職者の話をご紹介したいと思う。Jさんは29歳のSE。彼は大学卒業後からの7年で、3回も転職していた。もうさすがに落ち着かないと…。そう考えていた矢先に、3度目の転職先が倒産したのだ。Jさんのあまりの転職頻度に、最初私は、正直“ダメだろうな”と踏んでいた。彼自身も、望みが薄いということは重々承知しているようだった。アタック先の企業を選ぶ打ち合わせも、なんとなく盛り上がらない。じゃあ、日を改めて…という雰囲気になった矢先、Jさんは突然、私に宣言した。

「もう、ぜいたくは言わないです。私が行けそうな所ぜんぶ、面接を受けてみます」。そしてきっぱりとした口調で、こう続けた。「今度の転職で4回目なんて、私が選考側でもやっぱり採りたくないです。だからもし採用してくれるという会社があるのなら、そこが私にとっていい会社だと思うんです」。Jさんの望みどおり、私は“Jさんの経歴に少しでも興味を示しそうな会社”すべてにJさんの情報を流した。すると、人間とは不思議なもので、謙虚になった瞬間に運が向いてくるのだ。Jさんをぜひ、という会社が現れた。

「ウチは医療関係のシステムを作ってるんですが、最近はネットワーク系にも力を入れています。Jさんは転職先の2カ所で、その両方をご経験なさっている。よくぞこんなキャリアを積まれてきましたね。稀な人材ですよ」。私もJさんも驚いたが、とにかく先方企業はJさんをベタボメなのである。もちろん私たちに文句のあるはずがない。Jさんはさっそく転職していった。つい先日まで路頭に迷う心配をしていたのに、なかなか悪くない待遇で…。

転職先を“選ぶな”とは、私は言わない。むしろそれなりに選ぶほうが、このご時世では何かと安心である。しかし、もし自分に不利な条件が重なっていると感じたなら…。Jさんのように、いったん心を白紙に戻してみる。自分の間口を広げ、できる限り数多くの会社と接触してみることだ。その中に、あなたとの運命の出会いを待っている会社が、あるかもしれないのだ。