『 自己分析と不安の法則 』
商談や部内調整といった日々の交渉事なら、仕事の中でいくらでも場数を踏める。数をこなすうちに、自己演出や会話の技術が否応なく鍛練される。しかし就職面接は、残念ながら場数を踏めるものではない。コツをつかめないまま手探りで臨むため、いきおい誰もが不安になる。不安を感じると、人はどんな行動をとるか。過剰なリスクヘッジをしがちになるのである。
経歴書に書く経験業務を誇張したり、あれもこれもできますと面接で口走ってしまったり。ついつい思わず、の後で後悔した人を、私は無数に見てきた。そして“ついやってしまう”気持ちもよくわかる。私とて、普段は面談をする側だが、される側の経験はやはり少ない。経験がない分、自信もない。この自信のなさから来る虚飾の衝動を、我々はどう防げばよいのだろうか。
Lさんという、非常に感嘆させられた例がある。その当時25歳だったLさんは、インターネット関連の技術者として3年程度のキャリアを持っている人だった。ネット関連のいろいろな技術に手を染めているものの、どれも突き詰めては経験していない。スキルが幅広い分、同業十数社から出ていた募集条件の殆どに適合したが、決定打となる専門性にはいまひとつ欠けていた。
しかしずば抜けていたのは、Lさんの経歴書の書き方だったのだ。Lさんは応募する企業のひとつひとつに、それぞれ違う経歴書を書いていた。嘘を書くという意味ではない。幅広いスキルを武器に、企業の募集条件に合わせて“重点的に書くスキル”をチョイスしたのだ。それを詳しい一覧表にまとめ“自分にできる仕事の範囲はどこからどこまでか”を限界も含め明確にした。
この経歴書でLさんは次々と内定を増やしていった。“あれもこれもできる”という経歴書より、重点を選ぶことで一社一社に強くアピールする。さらに、できること・できないことの区別がはっきりしているため、単に“できる”と言うより、Lさんの入社後のイメージがつきやすい。決して経験豊富とは言えない自己像を虚飾することなく書きながら、切り口を変えて見せる・できる範囲を明確に見せるという方法で、Lさんは転職を成功させたのだった。
自分の不足を補う方法は、ハッタリや虚勢だけではないのだ。ありのままのスキルもLさんのように必ず何通りかの“切り口”つまり使い道がある。それが経歴を誇張するよりも強く信頼できるリスクヘッジになるのである。転職といった慣れない経験は、誰でも不安だ。だが不安は覆い隠すのではなく、解消しようと努力するものだ。自分を深く省みてこそ、それができるのだ。
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