『 ネガティブな転職理由の法則 』

前向きで立派な転職理由を最初から語れる人は、ごく少数である。大多数の 転職者が、会社や仕事の何かが嫌だという理由で転職を考え始めるからだ。 あれが嫌これが嫌という転職理由は、悪く言えばネガティブだ。中には驚く ほど小さなことを嫌がって会社を辞めてしまう人もいる。しかし私は“ネガ ティブな転職理由”も要は考え方次第だと思う。全てが悪いものではない。

27歳の営業マン、Tさんの成功例をもとに話そう。Tさんの前職は、ある老 舗メーカーのルートセールスだった。古くからの固定客を数社担当し、“良 いつきあい”を維持していくのが至上命令である。取引高も取引頻度もほと んど変動せず、とくべつ売り込みをすることは不要。取引の際いかにミスを せず、顧客の信頼を損なわないかが、この営業職のポイントだった。

人によっては“こんなじっくり型の営業こそしたい”と言われる仕事であ る。だがTさんは、性に合わないことこの上なかったらしい。ミスをしなけ れば一定の売上は維持できるが、もはや当たり前になってしまい、誰からも 評価されない。責任感でそこそこの成績を保ってきたTさんだったが、経験 を積むほど、評価や成果のはっきりしない仕事への不満がつのっていった。

もしも、これらの不満を消化しないまま抱えているだけだったら、恐らくT さんの転職は成功しなかっただろう。しかしTさんは働きながら、では自分 はどんな仕事を求めるのか、どんな仕事が向いているのかと自問自答し続け たのだ。「本当は新規開拓のみをやりたいが、今までの経験を考えると新規 開拓ありのルートセールスが向いていると思う」と、Tさんは不満を次のス テップへの具体的な希望へと変化させ、我々のオフィスに現れたのだった。

“今の仕事が嫌だ”と思っても次の仕事は見えないが、“ではそれを踏まえ てこんな仕事がしたい”と考えてあたれば、先に進めるものである。Tさん が内定したのは、数種のブランドを新たに立ち上げる老舗の食品メーカー だった。ルートセールスを基本に、同時に新ブランドの顧客開拓も行なって ほしいという企業のニーズが、Tさんの希望や経験としっくり合致したのだ。

人は誰しも、なにかしら不満を抱えて生きている。そのまま他人に言ったと ころで、同情はされるかもしれないが、聞いてもらって終わり。何も産みは しない。転職や仕事も同じことである。不満なら、次にどうするか。不満を 出発点に、自分は何ができるか。納得性ある具体案を提示して初めて、他人 も企業も振り向くのだ。不満に縛られるのではなく、その先を見てほしい。