『 何を望むか、の法則 』
会社や社会というものを知った上で職探しをするのは、大変なことである。こんな会社がいい、こんな仕事がいい、こんな待遇がいいと、細かな希望がきりもなく浮んできて、どれもが譲れないことのように思えてくる。“会社選びは住まい選びと同じ”とも言う。希望に優先順位をつけ、ポイントを数点に絞るのだと。しかし、その優先順位づけがまた難しい作業なのだが…。
Oさんという27歳の女性を例にあげて話をしてみたい。Oさんの前職は、外資系機械メーカーでの営業アシスタント。同僚のマーケッターの仕事を手伝っているうちに、どうしてもマーケティングをやりたくなった、というのがOさんの転職理由だった。そして、かなりの数の面接を受け、ことごとく落ちていた。マーケッターとしての実務経験と、技術知識がないからである。
我々のオフィスに登録した後もマーケッター募集と聞くとこまめに来訪していたOさんだったが、転職先は決まらないかに見えた。「志望を営業アシスタントに変えては」と、私もOさんに提案していた。事実、その面接を受けると、どの企業も彼女をぜひ欲しいと言うのだ。中には年収アップを提示する大手企業もあり、Oさん自身もその誘いには揺れ動いていた。
しかし彼女が悩んだ末に出した答えは“マーケッターになりたくて会社を辞めたのだから、志望は変えない”。魅力的な内定も全て辞退し、以前どおりこつこつと面接に足を運び続けた。そうこうするうちに、努力が報われたのか、マーケティングアシスタントでなら採用してもいいという企業が現れたのだ。Oさんが在籍していた外資系の競合にあたる国内メーカーである。
ただ、そのメーカーの社風は、Oさんが経験してきた外資系の自由闊達な社風とは違うのだった。小さなことにも稟議書をあげる仕事の進め方に馴染めるかという問題があった。もうひとつ自宅から1時間半かかるという通勤時間の問題もあった。だがOさんは、その企業への入社を決意したのである。この転職の中で一番に優先すべきものは何かが、Oさんには見えていたのだ。
後でOさんは、私にこう語ってくれた。“最初は絞りきれないほど希望があったが、たくさんの企業をまわるうちに、自分の本当の望みが見えてきた。それがマーケティングという仕事内容だったのだ”と。いかに優先順位をつけて希望をかなえるか。その答えは、Oさんの言葉に凝縮されていると私は思う。情報をただ眺めているだけでは、自分と対峙できない。転職の現場に足を運び、転職市場に身を置いてこそ、本当の自分が見えてくるものなのだ。
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