『 緊張の法則 』

毎日何人もの転職者の方と面談していると、時々ガチガチに緊張している人と出会うことがある。人材紹介オフィスの面談の段階からこれでは…と、少しでも緊張をほぐそうとするのだが、その“ほぐし”さえ受けつけない人もいる。相手が場を和ませようとしていることにも気付かないほど、自分の焦りだけが頭の中を占めているようなのだ。相手が見えていないのである。

緊張のあまり相手が見えなくなって失敗した、という話を私の学生時代の先輩だったUさんから聞かされたことがある。Uさんは、以前からの知り合いである会社社長に「うちで一緒に働かないか」と引き抜きの誘いを受けた。社員数10名そこそこの商品企画会社だが、斬新なアイデア商品を何本も出しており、Uさんはかねてからその会社に魅力を感じていたのだという。

その会社の、いきなり役員という誘いである。Uさんはもちろん二つ返事で誘いを受けた。そして社長との本格的な打ち合わせに臨んだ。社長は、もともとUさんのアウトドア仲間である。二人してテントを支えたり、飯にする魚をどっちが調達してくるかで口喧嘩したり。いわばお互い遠慮なく腹を割って話し合える間柄、の筈だった。その社長との“面接”が始まるまでは…。

「それまで別に意識したこともないのに、突然“自分を良く見せたい”と思ってしまったんだ」と、Uさんは後で私にそう話した。自分を良く見せたいと思うがあまり、自分の言っていることが気になる。笑顔など無理に見せたこともなかったのに、自分が笑顔でいるかどうかが気になる。自分にばかり意識が向いてしまう。だから、相手の説明をよく咀嚼することができない。ピントはずれな返事をしてしまう。そしてどんどん会話が噛み合わなくなる。

打ち合わせから数日後、社長は「こちらから誘っておいて本当に申し訳ない。しかしうちの仕事を理解してもらえなかったようなので…」と丁寧に詫びてきたそうだ。「無理もないよなあ」と、Uさんは私に言った。そして続けて「だって俺、自分のことばかりで、あの日あいつがどんな服着てたかも覚えていないんだ」と言ったのだった。なるほどなと私は思った。

緊張したら、人という字を手の平に書いて舐めろと言う。“良く見られたい”というような、相手より下位に立った気持ちになるなという意味だと私は思う。それだけでなく緊張したら、一瞬でもいいから相手に自分の意識を向けるよう頑張ってみるのもいいかもしれない。「この人変わったネクタイの趣味してるな」でもいいのだ。一瞬でもいい。自分の笑顔や言葉に集中するのをやめて、相手を真っ直ぐ見る。そこから本当の対話が始まるのだと思う。