『 生活信条と転職の法則 』
私の知人に、水が不味くて仕方ないから転職したという人がいる。彼の転職活動は一風変わっていた。普通なら仕事や会社を調べるところから始めるものだが、彼は、各地の名水の里を調べるところから始めたのだ。そして地酒で有名な、とある地方の地場企業へちゃっかり転職していった。届いた引越葉書には「水ごときで家も職場も替えるとは、我ながら変」と書かれていた。
ちっとも変ではない、ただ「水」っていうのが珍しいが。と、私は返事を出したのだった。我々の人材紹介オフィスにも、仕事や会社うんぬんでなく、生活信条にこだわった結果転職を決意したという人が数多くやってくる。田舎や都会など、住まう環境にこだわる人。もしくは趣味や家族のために割く時間にこだわる人…。その希望内容は本当に人それぞれで面白い。
仕事は生活の一部にすぎない。だから、生活全体を基準に働き方や職場を決める。これもひとつの考え方であり、方法だと思う。ただ、生活を基準に転職活動する際、注意せねばならないことがひとつある。それが何なのかを、以前我々のオフィスに登録していた転職者のTさんを例に説明していこう。Tさんは当時30歳。7歳を筆頭に3人の息子を持つ子煩悩なお父さんだった。
子供のために自然の豊かな北海道へ移り住みたい、というのがTさんの希望だった。幸いその頃の北海道は人手不足、かつTさんはIT系の有能なエンジニアということもあり、すぐに2社の候補企業があがった。Tさんはまず1社目の面接を受けに北海道へ飛んだのだが…。結果は不採用。私は2社目の面接を控えるTさんのために、その理由を企業へ問い合わせてみた。
「Tさんは、こちらでこんな暮らしがしたい、子供をこう育てたいという話しかしないんです」と企業の人事担当者は言うのだった。Tさんの生活信条はよくわかった。しかし、単にそれだけで北海道の会社を選ぶのなら、別にうちの会社でなくてもいいじゃないか。Tさんがなぜうちの会社の面接にわざわざ足を運んでくれたのか。人事担当としてはそこが知りたかったのに。
私は人事担当の話をTさんに伝えた。確かに生活に関する信条は、自分にとっては大事なことだ。企業もある程度はそれ理解している。だがお互いに話し合いをするなら、自分にとって大事なことだけでなく、相手にとって大事なことも考えてやる必要があるのではないだろうか。Tさんは2社目の面接で北海道への切符を手に入れた。生活信条の話はあくまで備考にし、その会社でどんな仕事をしたいのか、なぜその会社なのかを誠実に語った結果だった。
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