『 正反対の環境の法則 』

頭の中が煮詰まってくると、私たちの思考はともすれば極端から極端へと流れがちだ。仕事に行き詰まると「楽で簡単な仕事がしたい」と考えたり、人間関係に行き詰まると「人との関わりが薄い職場へ行きたい」と考たり。私が出会う転職者の方の中にも時々、現状と正反対の環境を希望する人がいる。

例を挙げてみよう。今回は我々の人材紹介オフィスに来た方ではなく私の個人的な知り合いなのだが、中堅広告代理店出身のEさんである。Eさんは連日続く深夜残業、膨大かつ多岐に渡る業務を一人で抱え込みつつノルマを追わねばならない環境に嫌気がさしていた。そこでEさんはある選択に出た。

「この度、学校法人○○学園の本部職員として新たなスタートを切りました」との葉書をEさんからもらったのは、昨年夏のことである。私は驚いてEさんに電話した。「役所の延長みたいな職場で、前の地獄みたいなハードワークが嘘のようだよ。いや転職して良かった」とEさんは笑っていたのだが…。

だが、先日久し振りにEさんに会ってみて、私はまた驚かされた。転職から数カ月たった彼は、前の会社そのままに忙しそうにしていたのだ。聞けば、当初は早く帰ったりもしていたのだが、慣れるにつれ、自分で仕事をどんどん増やしてしまったのだという。見つけた仕事をやらずにいられないのだ。

「正反対の職場へ行ったつもりだったのに、結局同じになってしまった」とEさんは笑った。私も「身についてしまったサガだなあ」と笑った。Eさんは、また広告の業界に戻ることを考えているらしい。「どこへ行ってもこうなるのなら、やっぱり自分が最初に志した仕事をしたい」と言うのだった。

人は長く居た環境を自分の中に取込んでいく。煩雑な仕事を憎んでも、濃い人間関係を憎んでも、それらは同時に自分の中にも染み込んでいるものだ。暇な職場や人との関りの薄い職場にいきなり飛び込んで、果たして「以前とは正反対で幸せ」となるだろうか。私はならないと思う。極端から極端へと流れる選択をしたくなる前に、自分が馴染んだ環境とは何かを考えてみたい。