『 セルフスターターの法則 』

企業に“どんな人材が欲しいのか”と聞くと、最近かなりの確率で返ってくる答えは“セルフスターター型の人材が欲しい”である。指示待ちや、受け身の人でなく、自分から課題を見つけ取り組んで欲しいと。それは企業の一方的な言い分かも知れないが、私たち働く側も心掛けておく価値はある。なぜなら私たちも“セルフスターター型企業”を求められるようになるからだ。

28歳のSE、Uさんの話を例にとって説明してみよう。Uさんは自分の会社の技術取得支援制度が貧弱なことに、常々疑問を感じていた。他の会社では新しい技術を積極的に採り入れている。これでは会社も自分たち技術者も、先端から取り残されてしまうはずだ。そう考えたUさんはたびたび会社に対して制度の拡充を提案していたのだが、聞き入れられることはなかった。

そこでUさんは我々のオフィスを訪ねて来たのだった。今の職場にもう期待することはない、技術力アップに関して企業努力をするような会社に転職したいと。志望会社との面接は順調に進み、この冬には2社の内定も得た。入社企業も決まった。後は上司に退職の意向を伝え、諸々の手続をとるだけのはずだった。しかしUさんの転職活動は、ここからが本番だったのである。

Uさんの上司や、その上の部長、はたまた役員までが出てきて「一体何が不満なのか。希望は全部受け入れ、待遇もアップするから留まってくれ」と今ごろ言いだしたのだ。Uさんのしてきた提案は、まともに検討さえされていなかったことが伺い知れる。話し合いは1カ月にも及んだ。だが、いくら会社があの手この手で引き留めても、Uさんの決意が変わることはなかった。

こうしてUさんは、やっと転職にこぎつけた。後で私は彼に聞いてみた。「会社のあなたへの期待がそれだけ大きかったということだし、少しは気持ちがグラつきませんでしたか」と。するとUさんはこう答えたのだった。「今までやろうと思えばできたはずの支援制度等も、社員が辞めると言いださなければ検討しないなんて。そんな受け身の会社はやっぱりだめですよ」

その言葉を聞いて、私はなるほどと思ったのだ。“セルフスターター型の人材”は、“企業がセルフスターター型かどうか”を見分けられるものなのだなと。企業が受け身でない人間を求めるなら、企業自身も受け身であってはならない。またそれは逆に、私たちが“自発的に課題解決する企業”を求めるなら、私たち自身も自発的な人間であらねばならないということだ。セルフスターター同士が出会ってこそ、人材も企業もお互いを高めあえるのだ。