『 採用姿勢の法則 』

マイクロソフトがチャレンジボーナスの300万円を売りに、技術コンサルタントを200名募集する。この話は皆さんもどこかで耳にされただろう。そして思ったのではないか。「なにもそこまでしなくても、マイクロソフトならたくさん人が来るんじゃないか」と。企業経営者の中にも、同じように考える人々が少なからずいる。「人があまってるんだから、採用なんて簡単なはずだ」

実は、これが大きな誤解なのだ。市場競争激化の昨今、企業内では採用ひとつをとっても、現場から細かい要望が上がってくる。即戦力となる人材をピンポイントで採用できるか否かが、業績に直結するからだ。しかしそのような人材は当然ライバル企業も狙っているわけで、いきおい企業間での激しい取り合いとなる。鷹揚に構えている企業は、そこで負けてしまうのである。

いつもは転職者側の話ばかりなので、たまには企業側の話もしてみたい。そこで今回は、私が仕事を共にさせて頂いた、Eさんという人事マンの話を例に挙げよう。Eさんの会社は業界トップと呼ばれるメーカーだったが、採用には苦戦していた。経営陣が人的コストをどんどん切り下げるのだ。現場からの「いい人材を」との声と経営陣の間で、Eさんは一人苦しんでいた。

そんな中、我々のオフィスから紹介されたある開発技術者が、Eさんの会社へ面接に来た。現場から「絶対採用を成功させろ」と言われるほど優秀な人だったのだが、彼は他に5社もの内定を持っていたのだった。しかもその5社はEさんの会社の競合企業ばかり。破格の待遇を提示している企業もある。Eさんは「提示待遇を引き上げないと負ける」と経営陣を説得したのだが…。

「トップ企業はウチだから、当然ウチに来るだろう」と、経営陣は説得を一蹴したのだ。Eさんからその言葉を聞いた私も、空いた口が塞がらなかった。結果は当然、内定辞退。技術者は他社へ転職した。家族もある人だったので、提示された給与水準では生活できないと判断したのである。「本当は第一志望だったのですが…」と、技術者は名残惜しそうに言い残していったそうだ。

人材は宝というが、相応の努力をせねば宝など手に入るはずもない。賢い企業はちゃんとそれを知っている。大規模リストラ等々、人的コストを削ることが風潮のようにもなっているが、組織をスリム化した上でも“人”なしでは会社は成長しないのだ。人材に、どれだけのパワーと熱意をかけるか。その姿勢を見れば、おのずと企業や経営者の器も見えてくるはずである。