『 新しい環境の法則 』
新しい職場が決まった転職者の方から、時々こんなご質問を受ける。「入社当日に気をつけることはありますか」と。「大丈夫。特に何もありません」と私は答えることにしている。職場での自分の第一印象を気にかける人もいるが、仮にも見込まれて入社するのだから、よほどのことがない限り心配はいらない。それより入社直後は、何かを心配する暇もないほど忙しいはずだ。
むしろ気をつけるべきなのは、入社直後よりも、数カ月後である。私の知っている転職者Tさんの話を例に説明してみよう。Tさんは、転職にはかなり慎重な人だった。大手企業からベンチャーへの思い切った転職を考えていたTさんは、我々のオフィスに人材登録すると同時に、独自に有望なベンチャーを見つけては自分からアプローチもしていた。活動期間には半年を費やした。
今後本当に有望な事業なのか。競合との競争力はどうなのか。全てに納得しなければ入社を決めないTさんだったが、そんな中、とうとう彼が心から惚れ込む企業が現れた。新興のソフトメーカーA社である。面接はとんとん拍子に進み、即入社へ。入社当時「いやあ本当に充実してます。覚えることが多くて大変ですよ」と、Tさんは電話口で快活に笑っていたのだが…。
そんなTさんが、3カ月後に突然退職してしまったのだ。私は、落ち込むTさんに退職の訳を聞いてみた。「最初は毎日が夢中で、気にならなかったんです。でも…」。社長のワンマンぶりに、Tさんはついていけなくなったのだという。社長がやれと言えば、1週間の仕事も3日でやらねばならない。休日も深夜も関係なく、用事があれば呼び出される。しかも、他のメンバーは社長に惚れ込んでついてきた創業時からの人たちで、何も文句を言わない。
「自分が納得して入社すれば、後は何とかなると思っていた。でも、どうにもならないこともあるんですね」。転職活動は、入社がゴールではない。入社して、完全にその環境の一員となった時がゴールなのだ、と私はTさんに言った。だから本当に慎重に会社を選ぶなら、会社の魅力だけでなく、会社の中にあるゴールが自分にとって到達可能かどうかを見極めねばならない。
何もかもが新しい環境は、人を夢中にさせる。魅力を感じて入ったならなおさらだ。しかし覚えることを覚え、新鮮さが失われた時、新しい環境は日常になる。その時に、納得を感じられるかどうか。表面的な魅力だけでなく、その環境で自分が送る日常をイメージしてほしい。Tさんは今、この経験をもとに“納得できる経営方針と社風”を重点に、慎重に転職活動している。
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