『 ノリの法則 』
職場には色んな性格の人がいて当然だ。かちんと来ても我慢したり、苦手な人とも組んできっちり仕事をしたり。そんなことは私たちの誰もが日常的にクリアしていることだろう。だが、個々の性格ではなく、仕事の上で根本的な何かが周囲と違ってしまっている時、人は職場の中で孤立する。
その“何か”とは仕事の“ノリ”ではないかと、私は先日A社の人事担当者と話をしながら思ったのだった。A社は、ベンチャーから大手へと躍進したIT系企業として名の売れた会社である。転職先として狙うエンジニアは引きも切らず、私もたびたびA社と転職者の面接をセッティングしていた。その中で、人気企業にしてはちょっと珍しい現象が起こっているのだ。
転職者自らが、選考途中で続々と辞退を申し出る。理由を聞いてみると、誰もが一様に「私にはついて行けそうもない」と言う。A社ほど人気のある企業なら、普通は多少無理をしてでも入社を希望する人の方が多くなるはずだ。ところが、面接に臨んだ実に8割方の人が自ら選考を辞退するのである。
それはA社の面接のせいだ。A社では、人事も役員も面接に顔を出さない。出てくるのは、現場のスタッフが2名以上。彼らは転職者の前に座るなり、いきなり世間話を始める。それもただの世間話ではなく、エンジニア同士のあまりにもマニアックなよもやま話である。あの会社が今度作ったシステムのこの部分がまずいとか、いやこの部分では評価できるとか、そんな話だ。
話に入れない転職者はとことん入れない。「仕事の本筋と無関係。面接に来ている者を馬鹿にするのか」と、怒って席を立つ人もいるという。だが、たまに目を輝かせて「自分はこう思う」と水を得た魚のように語り始める人がいるらしい。そうした人が最終的にA社に入社する。「おたくノリでしょう」と、A社の人事担当者は笑って言うのだった。「でもうちは、そんなエンジニアたちがマニアな愛情を込めて作ったシステムで伸びてきた会社なんです」
話し足りなさそうに帰っていった人ほど、入社後、生き生きとしているそうだ。「やっぱりノリが合うかどうかは大事ですよ」とA社の人事担当者は言った。私もそうだと思う。“ノリ”とはこの場合、人々の向いている方向性を指す言葉だ。性格は、多少合わなくともお互い我慢できる。しかし、皆と違う方向を向いて一人立たされるのは、不幸だ。誰もがバラバラの方向を向いている会社も不幸だ。皆さんが自分のノリと合う職場に出会えることを祈る。
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