『 サブスキルの法則 』
先日、知り合いの若手コピーライターT君から、個人的に相談を受けた。転職活動に際して経歴書を書いたので、ちょっとチェックして欲しいと言う。気軽に引き受けてみたのだが、経歴書を見るなり、また私のおせっかい癖がむくむくと頭をもたげてきてしまったのだった。その経歴書には、受賞関係、いわゆる“コピーライターとしての実績”しか書かれていなかったからだ。
他に何か書き込むことはないのかと聞く私に、T君は釈然としない表情でこう答えた。「だって、コピーライターとして転職先に売り込むんだから、受賞実績で押すのがいちばん強いでしょ」。「う~ん」と考え込む私。「確かに受賞実績はメインで押すべきことだけど、それだけじゃ弱いんだ。この経歴書には、サブの売り込みポイントが書かれていないんだ…」。
クオリティの高いコピーライティングができる。それは、転職先の会社にとっては“最低ラインの採用基準”なのである。つまりクリアしていて当然の話なのだ。彼のようなスペシャリスト職に就く人はよく誤解しがちなのだが、“専門分野のスキルで勝負できればいい”と考えているフシがある。しかし、採用する会社側は、専門分野のスキルプラスアルファをも求めているのだ。例えば、ある業界知識に明るい、ディレクション等の営業的な動きもできる、部下・後輩をマネジメントした経験がある、業務フロー等の社内的改善について実績がある等々…。何でもいい、サブの売り込みポイントが必要なのだ。業界随一の専門スキルでライバルを引き離すのなら、それもいいだろう。しかし、そこまでのスキルを手に入れられるのは、現実問題として一握りの人間に過ぎない。コピーライターに限らず、ビジネスマンとして働く私たちは、互いに拮抗する競争相手と差をつけあっていかねばならない。そこで効力を発揮するのが、メインのスキルを補強する、サブのスキルなのである。
またこれは経歴書とは直接関係ないことだが、採用会社のトップはなおさら全人物的な評価をしてくる。仕事はできて当たり前。で、キミはどんな人間なのだ?と。専門職者という範疇のみでなくひとりの職業人として、どのようなアイデンティティを持っているのか。何を目指しているのか。企業トップ層にプレゼンテーションできる人が、実は一番強かったりもするのだ。
不安げな表情になったT君に、私は提案したのだった。「とりあえず、どんな瑣末なことでもいいから経験業務を出来る限り書き出してごらん。話はそれからだ」。組織の中で働く以上、誰しも何らかのサブスキルがついていくものである。違いは、それを意識するか否かに過ぎないのだ。「わかった。来週にでも」とT君は答えてくれた。着実に力を伸ばしてきたT君なら大丈夫だと私は思う。強力なサブスキルが見つかるはずだ。今から楽しみである。
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