『 リスク管理の法則 』

金融商品の特集記事を読んでいると、よく「利用者自らがリスク管理を」というコメントにお目にかかる。ハイ・ミディアム・ローのリスク&リターン順に商品説明が並び、「それぞれのリスクを理解した上で、あなた自身が責任を持って選択してください」と結ばれるわけだ。私は「言われなくてもわかってるよ」と思いながら、ついついハイリターン商品に目が行ってしまう。

ところで、実は同じようなことが転職の世界でも起こっている。しかも、転職者自身が気付かないうちにだ。選択を間違えただけで丸損の金融商品と違って、転職には“労働”という代償行為がある。だから、「これから頑張って働けばいいや」と考えてしまうため、問題があることが、わかりづらい。しかし、転職に際して考えるべきことは、「頑張れば良い」ではなく、

「実際に自分が頑張れるか否か」だ。例えば、この頑張れるか否かをとことんつきつめた人の話をしておこう。

話の主は27歳のソフトウェア開発者Pさん。Pさんは超が付くほどの慎重な人で、何社もの人材紹介会社をかけもちして転職活動を進めていた。そして、その中の何社かを“おいしい話だけしかしない”という理由で切り捨てていた。Pさんの逆鱗に触れた“おいしい話”とは何だったのか。興味を持って尋ねた私は、Pさんの説明を聞いてなるほど、と思った。

「年収がこれだけ上がりますよと言うので理由を聞いたんですが、あなたのスキルが素晴らしいからとか、バカみたいな答えしか返ってこないんです」Pさんが欲しかったのは年収アップの“裏”に隠された情報だったのだという。前職と比べ仕事の難易度がこれだけアップするとか、体力的なハードさがこんなにアップするとか、会社の経理が少々ドンブリだ、といった情報である。「それを知らないとついていけるかどうかわからないじゃないですか」

Pさんは結局、前職とほぼ同じ年収額で転職していった。限りなくローリスクを選択したわけである。その選択が正しいかどうかは、私にはわからない。ただ、転職市場にもリスク&リターンが存在することを意識し、“クリア可能か”という視点でリスク&リターンのレベルを選択した彼の姿勢には学ぶべき所がある。どんな世界にも“おいしい話”と“その裏側”が存在する。それをわかったつもりでなく、わかった上で背負おえるかどうかが重要なのだ。