『 就職と就社の法則 』

“やりたい仕事に就くことが、前向きな、正しい就職の姿である”。いつごろからか私たちはみんな、そう思い込まされている。人生に対してポジティブな人間は、やりがいを基準に仕事を選ぶものだと。本心では「やりがいより、まずは安定した環境だよ」と思っていても、堂々と口に出すのは何となくはばかられる。会社の善し悪しだけで就職先を決めるヤツは夢のない保守的人間。…なんて、馬鹿にされそうな雰囲気があるからだ。しかし本当に“やりたい仕事”だけが、そんなに正しいのだろうか。

Nさんの例がある。「やりたかった仕事に就けて俺は幸せだ!」…そう思っていた矢先に、Nさんは入社したての会社をリストラされてしまったのだ。仕事の理想を追求しようとするあまり、Nさんは、同僚や上司に“率直な意見”をしまくっていた。彼から見ると周囲の人々は、ヤル気がなく、不手際が多いように思えたからだ。俺が良い方向に変えてやる、と考えていた。当の同僚や上司にしてみれば、ありがた迷惑な話である。彼らには彼らのやりかたがちゃんとある。なのにNさんは、そのすべてを引っかき回すのだ。周囲の状況を省みず、あくまで“自分のやりたい仕事”にこだわるNさん。彼は、職場の中で完全な邪魔者と化してしまっていたのである。

就職と就社のバランスをとれ。私自身は転職者のみなさんに、こうアドバイスしている。どんな仕事に就くかが“就職”。どんな会社に入るのかが“就社”。この2つをバランスよく考えて、転職先を決めるのである。日本の企業は、いろいろややこしい。仕事のことだけ考えて生きていける場所ではない。それぞれの会社に独自の“社風”があり、そこに馴染めるかどうかが重要なカギになる。やりたい仕事を続けるため、自分はどんな社風の中に身を置くべきなのか。そこまで考えて職場を選ぶ必要があるのだ。しかも今なら、経営状態や業界の先行きも念入りに調べておいたほうがいい。仕事は面白くて毎日楽しいが、給与は未払い。あげくに倒産した。そんな、笑えるようで笑えない話も、実際にたくさん起こっている。

その道のプロとして仕事をする人は、確かに恰好いい。しかし、我々の多くはサラリーマンである。プロになるためにはまず、ステージが要るのだ。少しでも自分に合った、そして丈夫なステージを選ぶ。それを“就社”と呼ぶのだ。決して恥ずかしいことでも、夢のない考えでもない。“就職”の理想も大切だが、“就社”の現実も、ぜひ見つめて頂きたいと思う。