『 人物的に好かん、の法則 』

「上司も部下も、事務の女性たちも、自分の“お客様”だと思うことです。」

最近どこかのインタビュー記事で、こんな名言を目にした。あるトップセールスマンの“売れる秘訣”である。単に専門能力が高けりゃいいってもんじゃない。周囲の人間関係こそが仕事上の大切なツールなんだと、この人は言いたいのだろう。まさしくその通りだと私も思う。

何言ってるんだ。アメリカ型の能力主義が来たら、人間関係より実力だぜ。とあなたは思うかも知れない。そこで今回は、良き反面教師となる話を紹介しよう。能力より“気持ち”優先な日本企業の姿が、見え隠れする話である。

私たちの人材紹介オフィスに現れたTさんは、どこから見ても文句のつけようがないスーパー営業マンだった。経歴書には彼の輝かしい業績がびっしりと書かれている。これはラクな仕事になりそうだという私の期待どおり、彼は在職中の会社よりも上位ランクの企業に、あっさりと内定を決めた。ただ、問題が一つだけあった。その企業はTさんにとってかなりの遠隔地となるため、持ち家のマンションを売り払って転居しないといけないのだ。先方の人事部が素晴らしい便宜を図ってくれた。そのマンションをTさんに代わって売却し、新しい家を購入して、引っ越し費用も全額負担でお迎えしましょう、と。もちろん私もTさんも喜んだ。「よほどあなたの能力に惚れ込んだ、ということですよ」「信じられない。有り難いことです」

しかし、ここからがいけない。Tさんはこの一件ですっかり“味をしめて”しまったのだ。売却に際してマンションの改装が必要と知ったTさんは、その改装代までもを負担してくれないかと、先方の人事部に電話で“おねだり”してしまった。「なんか、出してくれそうな雰囲気だし…」と気軽に考えて。その次の日。スーパー営業マンTさんの華々しい転職先は、一瞬にして消えた。私のところへ内定取り消しの電話が入ってきたのだ。Tさんの入社後の上司にあたる営業部長が怒り狂っているという。何とかその場を納めようとした私も、営業部長の以下の言い分には、深くうなずくしかなかった。
「確かに能力の高さは認めるが、人物的に好かんのです!」

Tさんは今、私が紹介した別の企業で働いている。入社後の評判は上々なので、たぶん充分に反省したのだろう。日本の企業は、能力だけでなく“人”を見ている。重要なポイントなのに、最近の“能力主義”流行りで忘れられがちなのが気掛かりだ。Tさんの失敗は人ごとではない。仕事の本ばかり読んでないで、苦手な上司ともっと打ち解けねば…と思う今日この頃である。