『 新しいシステムの法則 』

昨年12月から派遣法が改正されたことで、我々ビジネスマンの“働き方”もいよいよ選択肢が増えてきた。今はまだどのように定着していくのか見えないだけに各社様子見というところだが、営業系職種などを対象に試験的に採り入れる企業も増えてきている。我々働く側も本人の志向によって、さまざまな“新しいシステム”を進んで選択する日が来るのかもしれない。

だが先日、少し落胆させられる出来事があったのだ。“テンプ・トゥ・パーム”という制度を皆さんはご存知だろうか。企業が雇用対象者をまず派遣社員として採用し、本人と企業がお互いを気に入れば正社員に切替える、言わば試用期間における新システムである。企業・転職者の双方が出会いと見極めの機会を増やせる、それなりにメリットあるシステムのはずなのだが…。

テンプ・トゥ・パームでの採用を試験的に行いたいと希望してきたのは、大手企業A社の人事担当だった。評判の制度は積極的に試したいという言葉に、むろん私も全面的に協力するつもりだった。丁度その時Yさんという優秀なマーケッターがA社を希望しており、話は順調に進んでいった。Yさんも正社員採用の前に職場の見極めができるという点を気に入ってくれたのだ。

しかし交渉が給与額の件に及ぶにつれ、A社の人事担当がとんでもないことを言いだしたのである。「Yさんの前職給の半分ぐらいしか出せない」と。A社の派遣社員の採用実績は今まで事務スタッフだけであり、Yさんの給与もその“前例”に合わせねばならないと言うのだ。Yさんの市場価値や生活事情に照らすと、その金額はあまりにも低すぎる。私は再度交渉を試みた。

ところが「そうは言っても前例がありませんから」と人事担当は言うのだ。前例のないことを作るのが彼の仕事であるはずなのだが。お終いには「厳しい採用市場なのだから、Yさんもその程度のリスクを受け入れないでどうするんですか」と言いだす始末。ここに及んで、私もYさんもあきれたのだった。Yさんはさっさと交渉を打ち切って他社の内定先へ行ってしまった。

「あれでは試しに働くまでもなく信用できません」。最初はA社を第一志望としていたYさんの言葉の重みを、A社の人事担当にぜひ考えてほしいと私は思ったのだった。新しいシステムの都合の良い部分だけを享受するなど、企業側であってもできはしない。企業と我々働く側がメリットとリスクを分かち合い、信頼関係という実績を積んでこそ、こうした制度は定着するのだ。