『 適職の法則 』

転職者のみなさんから“適性”について質問されることが多い。自分は他にどんな職業が向いているのか。こんな仕事をしたいが適性はあるのか、等々。適職診断系サイトの診断結果を携えて来る人もいる。そんな時、私は主に2つのアドバイスをしている。ひとつは“自分本来の性格のみに固執しない”もうひとつは“経験してきた職業や職場の振り返りをする”ことである。

新卒者なら適職診断の結果を素直に受け止めて良いかも知れないが、社会人はそうはいかない。なぜなら私たちは就職と同時に“社会人としての人格”を形成していくからだ。仕事の性質、職場独自の業務フロー、雰囲気、企業モラル。その一つ一つが私たちのビジネス人格を形作る。だから、自分はもともとこんな人間だからと思って選んだ仕事が、微妙にズレていたりする。

Hさんという具体的な例を挙げて説明しよう。Hさんの会社は、業界ではベンチャーと位置づけられる中堅メーカー。彼はその中で数年連続トップの売上を誇る花形営業マンだった。そんなHさんに、ある日異動の話が持ち上がった。人事の採用担当が実家の都合で休職を余儀なくされるため、Hさんにその間のピンチヒッターをぜひとも務めてもらえないかというのだ。

Hさんの会社は急成長していたとは言え、ベンチャーだけに採用には苦戦していた。採用活動は販売と同等にこの会社の重大事であり、そこで営業部門の中でもとりわけ優秀なHさんに白羽の矢が立ったのだ。「何ごとにも細やかな君の性質は、採用に向いていると思う」と、Hさんの上司は言った。Hさんも、「人とじっくり話をするのは好きだから面白そうだ」と思った。

こうして、Hさんは採用担当として精力的に面接をこなし始めたのだが、その時期から人員採用実績が激減しだしたのである。面接ではいいところまで行くのに、土壇場で応募者に逃げられてしまうのだ。応募者のフォローもHさんは前任者以上に丁寧だったし、原因はしばらくわからなかった。Hさんの上司と私が何度か面接に同席し、やっと判明した。Hさんは、営業時代に叩き込まれた“強烈なクロージング”を、転職者に対しやっていたのだ。

結局Hさんの癖は、彼自身が幾ら気をつけても直すことができなかった。誰もが採用向きと思ったHさんの性質も、彼が培ってきた“ビジネススタイル”には勝てなかったのである。適職について聞かれる時、私はこのHさんの話を思い出す。私たち社会人にとって適職を見つけることは、つまり、今までの仕事を見つめなおすことなのだ。どんな環境で、何をどのように進めてきたか。そこへまず立ち返ってこそ、本当の適職が見えてくるはずなのである。