『 選択の法則 』
転職者の手助けをしていて時々驚くのだが、就職難の世の中でも“悩むほど多くの内定を得る人”は、確かにいる。例えば最近では、経営コンサルタントのRさんが軽く10社位の内定を得た。うらやましい話かもしれないが、選択肢が増え過ぎてもまた苦労するものなのだ。1社を選ぶ苦労である。
Rさんは選挙事務所や教育系企業での職務を経験したのち、私が出会った時には某コンサルティングファームに籍を置いていた。ゆくゆくは郷里に帰り独立したい。そのためにはもう一段、経営スキルを磨ける環境に移りたい。それがRさんの転職の動機だった。内定をまず4社に絞ったRさんは、その中から更に絞るとすればどれか、と私に相談してきた。正直どれでも良いのではないかと思う程の企業ばかりだったのだが、私たちはあくまで“いかに転職目的が達成できるか”という観点で絞り込みの作業を行なったのだった。
1社目は超大手総研だが、実情では期待するような環境はないと見て辞退。2社目は外資の通信系企業だが、配属される部署では限られたキャリアしか積めないと見て辞退。残ったのはコンサルティングファームA社と、大手通信系企業B社の事業企画室だった。大変なのはここからで、脈ありと見たA社がRさんに激しくクロージングをかけてきた。何人もの役員や役職者が出てきて「ぜひ当社に来てくれ」と口説き始めたのだ。普通なら喜ぶところだが、逆にRさんは困り果ててしまった。「私はきちんと考えて決めたいんです。しばらく郷里に帰ります」。そう言って、すべての連絡を絶った。
Rさんが再び現れたのは3週間後だった。話を聞くと、最終的に決めたのはA社ではなく、何の獲得工作もしてこなかったB社だという。「本当に悩みました」とこぼしながら、Rさんは決め手となった理由を聞かせてくれた。「A社で既存のキャリアを更に一段階磨くことも魅力でしたが、通信系企業B社の事業企画室では事業の立案から運営まで全てを任せてもらえる。裁量権が大きく、実地の経営を直に経験できる。そこが決め手でした」。なんと冷静な人だろう、と私は嘆息した。Rさんは激しい獲得工作に惑わされることなく、当初の目的である“将来の独立”に添った決断を下したのだ。
転職者は皆、多かれ少なかれ何かを“選択”する必要に迫られる。どんな業界を選ぶか。どんな仕事を選ぶか。どの会社に応募するか。Rさんのような例は極端だが、それでも多くの示唆を含んでいると私は思う。他人の言葉に惑わされず客観的な材料を集めて自ら結論を出すこと。転職の目的を明確に持ち、目的に添った判断を下していくことである。それができる人ならば、おのずと良い企業や仕事が引き寄せられてくるものなのだ。Rさんは今、B社でさっそく事業の立ち上げを命ぜられ、忙しい毎日を過ごしているという。
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