『 不本意な仕事の法則 』

毎年この時期になると、人材紹介オフィスに来る転職者の中にも“ニューフェイス”が目立ち始める。春に入社した会社を早々に辞めたいと考えている新入社員たちだ。転職相談というより、そんな時は人生相談のようになってしまうことが多い。入社後の現実がイメージとあまりにも違う、と悩んでいる人が多いのだ。ただ、社会人1年生だからこそ、悩みを素直に打ち明けることもできるのだろう。キャリアのあるビジネスマンにも“やりたい仕事ではなかった”と悩みながら働いている人は、かなり多いのではないかと思う。

そんな仕事に悩む新人のみなさんに、時々お話しするエピソードがある。コンピュータ系エンジニアJさんの話である。Jさんは、大学院を半期だけ留年してしまったために、普通の“就職活動”ができなかった。本当なら大手の開発企業に新卒入社できる充分な素養があったにも関わらず、“経験ゼロの中途採用者”として苦しい会社探しを強いられたのである。やっと採用された先は、小さなソフトハウス。実務経験がないということが、市場でどんな評価を受けるのか。Jさんはこの就職活動を通じて身をもって知ったのだった。

Jさんは、そのソフトハウスで本当にいろいろな仕事をこなしていった。新しいアプリケーションの使い方を覚えればできる程度の、Jさんにとっては簡単な仕事である。普通なら“こんなことを続けていていいのだろうか”と悩んでもおかしくはないだろう。しかしJさんは、どのプロジェクトも毎回きっちりと仕上げながら、その会社で働き続けたのだ。

Jさんが我々のオフィスに現れた時には、彼がソフトハウスに入社してから3年が経っていた。人材登録してからほどなく、Jさんの院での研究内容が幾つかの企業の目に留まった。最初の就職活動の時とは、大違いの反応である。Jさんの職務経験内容は決して濃いものとは言えなかったが、こつこつと積み上げてきた実績が、企業に彼の可能性を認めさせたのだ。

“今の仕事は、何も得るものがない”。そんな悩みを打ち明ける若い人たちにJさんのエピソードを話した後、私はこう問いかける。“数年先も、何ももたらさない仕事なのだろうか”と。自分に合っていないと切り捨てるのは簡単だ。ただ、本当に何も得ないまま不本意な形で仕事から去ると、キャリアの中に全く無駄な時間を作ってしまうことになる。何でもステップにする図太さも企業人には必要なのではないかと、私は思うのだ。