『 経験よりもマインド、の法則 』

“いや、その企業はちょっと私に向かないです”“その企業はすいませんが遠慮しておきます”。中高年特有の慇懃無礼な断り文句を聞くたびに、私は暗澹たる気持ちになっていく。ここ1カ月間、40~50代の転職希望者たちと面談し、ある企業を勧めているのだが…。まったく上手くいかないのだ。

厳しい転職市場の中でも、さらに厳しい状況に立たされているのが、中高年の求職者たちである。その彼らが面接にさえ行きたがらない“ある企業”。一体どんな会社なのだろう…と、皆さんはお思いだろうか。実は、最近めったに見ない好カードなのだ。いや、好景気の頃にも無かったかも知れない。

募集しているのは、準大手の流通企業Y社である。近く行なわれる大幅な店舗増を機に、今までの親族経営を刷新。大手へのランクアップに恥じない経営体制を再構築する計画だ。しかもここからが驚きなのだが、副社長以下の役員をできる限り公募すると言う。若手中心の社内には、役員に該当する人材がいないのだ。「…とはいえコネで引っ張ってきたのでは、マインド的に不安です。ハイスペックなスキルよりも“会社のために頑張ろう”という気概のほうが、ウチの役員には大切なのです。役員以下の社員全員が気概をもって仕事に取り組んでいるのですから」。Y社社長は私にこう語り、対象年齢を40~50代とすること、管理職経験さえあれば流通業や会社経営の経験は問わないことを約束した。「経験よりもウチは、マインドを重視します」。

しかし社長の気持ちと裏腹に、転職者たちはY社に寄り付こうともしない。Y社のイメージが“泥臭い”からである。始めは興味深げに話を聞いていた人もY社の名前を出した途端に逃げ腰になってしまう。「客として行くにはいいけど、働くのは…」。断る理由がもっと明確なものなら、まだ納得がいく。他に目標があるなら、応援しよう。しかし私がここ1カ月間で面談してきた中に、そんな人は1人もいなかった。酸いも甘いも噛み分けてきたはずの元管理職者たち。彼らはいまだに、うわべしか見ていないようなのだ。

専門性が要求される求人市場の中、専門性を持たない人の最後の武器となるのは“マインド”である。彼らはそのことに気付かねばならない。せめて物事の上っ面ばかり眺めるのをやめれば、可能性も広がるのだが…。喜んで迎え入れる会社が存在するだけに残念でならないのだ。Y社と幸せな出会いを果たす人は、このまま現れないのだろうか。ひどく心配な今日この頃である。