『 幸福な転職、の法則 』

花見シーズン真っ只中のある夜、私も十数人の団体にまぎれこんで、夜桜見物に出掛けたのだった。お決まりの酒宴で、はじめは一緒にドンチャンやっていたのだが…。そのうち友人のG君が「ちょっと話があるんだが」とにじり寄ってきた。G君は、所属する組織こそ違えど、私と同じく人材紹介会社の転職コンサルタント。その彼が、実は転職することになったのだ、という。

転職コンサルタントが転職?いったいどんな転職をするのだろう?と皆さんはお思いになるだろうか。私も同業者として非常に興味があった。G君は33歳。人事系コンサルタントの職務を色々と経験してきた優秀な男である。私は缶ビールを手に川べりへと場所を移し、G君に詳細を聞いてみたのだった。

「今後の自分を考えた場合、2つの選択肢があると思ったんだ」。先程までかなり飲んでいた筈なのに、G君はあまり酔ってはいなかった。「ひとつは、このまま人事系のコンサルタントを続ける道。もうひとつは、企業人事の当事者を経験する道」。G君の言いたいことが、私には良く分かった。我々人事系のコンサルタントは“人事のプロ”ではあるが、あくまで“外部コンサルタントという客観的な立場から”企業や人材を手助けする存在である。そのぶん適確な助言ができるのだが、やはりキャリアを積む過程のどこかで“人事の当事者”を経験しておきたいところだ。「転職先は企業の人事部なんだね?」。私はG君におめでとうと言った。「ありがとう。僕は結局“人をどう活かすか”を考える仕事が好きなんだと思う。人事系の仕事でキャリアプランを考えた場合、やはりどうしても経験しておきたいんだ。この年齢で転職に踏み切るのはリスクもあるけど、チャンスは今しかないと思って」。

自分もそう思う、と私はG君に言った。将来と現在のメリット及びリスクを勘案した上で、長期的なキャリアプランを描くG君に、改めて学ばされた思いだった。“今をどう生きるか”ではなく“どのような生き方を選択するのか。そのために今何をするのか”。転職にしろ、組織内でのスキルアップにしろ、“自分の柱”をどこに置いて生きるのかを考えなければ、私たち職業人は道を見失ってしまう。“人を活かす仕事”を自らの柱と決めたG君には、目指すべき方向と、そのために今何をすべきかがわかっているのである。

「人事を何年やるかはまだわからないけど、きっとまたコンサルタントの世界に戻ってくるよ。まあ、長い修業になるとは思うけど」。対岸の夜桜を眺めながら、私はG君と静かに乾杯したのであった。G君の前途に幸多かれ!