『 自分の市場価値を知る!! 』

人材紹介オフィスのコーディネーター。その仕事を、私はもう何年も続けている。数多くの転職希望者と面談し、職場を斡旋してきた。世の中にはいろいろな人がいるものだと、いまだによく考えさせられる。

●CASE1/自信のない男
「自分の市場価値はこうして創る」「己の市場価値を知る○個のポイント」 最近、サラリーマン向けの雑誌に、このような記事タイトルが多く見られるようになった。「己の市場価値を分析し、真に必要とされるスキルを身に付けよ。さもなくばこれからの大失業時代を生き残ってはいけない」
たいがいがこんな論調だ。しかし、自分1人で冷静に自己分析できる人が、いったい何人いるというのだろう。私の実感では2割にも満たない。
国家資格を取ったのに何で採用されないと怒りだす人。どこそこの高名なスキルテストで最悪の結果だったと泣きだす人…。人材紹介オフィスは、市場価値ブームに振り回されし人々の実例で一杯だ。日々忍耐強くなる自分が、我ながら偉いと思う(そう思う私も、実はカン違いしてたりして?)。

Cさんは、そんな中でも「特に自信喪失ぎみ」な部類に入る人だった。
有名私立大理工系卒の25歳。学生時代の就職活動中、Cさんは大手コンピュータメーカーのエンジニアを夢見ていた。しかし、折しも世は平成不況の真っただ中。夢破れた彼は、小さな機械メーカーに就職したのである。
Cさんはここで、不安だらけの3年間を過ごした。まず、仕事を教えてくれる上司がいない。Cさんの専攻を見込んだ社長が、「社内業務へのコンピュータ導入」を彼に一任したからだ。所属する部署もなく、独りぼっちの彼が指示を仰げるのは、キータッチさえ怪しい社長のみ。一介の新入社員が、たった1人で各部門の管理職を相手に交渉し、社内業務の棚卸しをし、システムなりネットワークなりを組み上げていかねばならなかった。
不安だらけだったが、他にわかる人がいない以上、逃げ出すわけにはいかない。Cさんはそんな責任感だけを頼りに3年間を過ごした。そしてようやく社内のインフラが整いはじめた頃、私たちのオフィスを訪ねてきたのだ。

「自分には、世間で言う“市場価値”が、まったくないと思うんです」
私の前に座ったCさんは、弱々しくこうつぶやいた。
「だから、ぜいたくは言いません。どんな会社でもいいんです。仕事を教えてくれる先輩がいて、何かスキルを身に付けられる所であれば」
前述のCさんの経歴は、恥ずかしがる彼を根気強く説得しながらやっとのことで聞き出したものである。私はCさんに言った。
「このスカスカの職務経歴書を書き直して下さい。いいですか、私に話してくれたことを、恥と思わず全部書くんです」

超大手の外資系コンピュータメーカーA社が、Cさんとの面接を打診してきた。当然、Cさんにとっては夢のまた夢(と、思っていた)企業である。もうおわかりだろうか。A社が彼を欲しがった理由は、Cさん自身が「恥」と思い込んでいた所にあった。面接を無事に終え、Cさんの獲得に成功したA社の人事担当者は、私にこう言ったのである。「いやあ、いい人が採れましたよ。あの若さで、1人で業務を切り盛りした経験があるなんて。並のテクニカル馬鹿より、鍛えがいありますよ」

自分の市場価値とは何か。何が自分の強みか。
Cさんのように過小評価しすぎる人も他に少なくないだろうし、反対に自己過信してしまう人もいるだろう。私から言えることはただひとつだ。「冷静に自己評価したいなら、雑誌の特集記事ではなく、生身の他人なり企業なりに評価してもらいなさい」ということである。