『 余裕の法則 』

「今年は3連休が3カ月続けてあるんですよねえ」と、転職者のEさんが面談中にふと言い出した。彼は建材メーカーに在職中の営業マンで、年末を目標に転職活動している。だが毎日遅くまで残業があるため、平日の面接がなかなか思うように入れられない。必死に時間をやりくりして仕事を片付けては、夕方の面接に滑り込むということが続き、Eさんは少々疲れ気味だった。

ならば3連休は有り難いはずなのだが、気も焦っているEさんは、反対に連休を恐れていた。「休日でも何かできることはないでしょうか。ただでさえ連休のしわ寄せで相手先も忙しくなり、ますます動きづらくなるのだから、休日も無駄にしたくないんです…」とEさんは言うのだ。確かにわからないではないが、そこまで思い詰めるのもどうかと私は思ったのだった。

そこで私はEさんにこんな話をしてみた。1年ほど前に転職していったMさんの話だ。Mさんもかなり忙しい人で、転職活動の時間確保に苦労することが多かった。それでもなんとか数社の面接を受け、香港に本社がある外資系商社の最終選考に残った。最後の面接は香港本社との電話面接である。この電話面接の時間が、お互いの都合を調整していくうちに、日曜になったのだ。

普通なら、その日曜に予定があっても、面接となれば思わずキャンセルしてしまうものだ。しかしMさんは違った。その日は以前からスキーへ行く予定であり、予定を変えるつもりはない。面接はホテルの電話で受ける。と、事もなげに言ったのだった。なんて余裕のある人なんだと、私はかなり驚いた。

レジャー先で電話を受けるという方法自体には、何の問題もない。皆がそれをやらないだけなのだ。とかく転職や就職活動となると、自宅で襟を正して連絡を待たなければ、という気分になりがちだ。しかし本来、電話などどこで受けても同じなのである。予定をキャンセルして自宅で待つか、レジャー先で受けるかは、忘れられがちだが結局、本人の気持ち次第なのである。

Mさんはスキー場のホテルでしっかり最終面接をこなし、その外資系商社へ転職していった。彼の話を聞かされたEさんも、少々驚いた様子だった。「転職活動をなめろと言うわけではないですが、転職はそんなものだという気持ちを持ってもいいのでは」と私はEさんに言った。思うようにはかどらない中で、余裕、つまり自分自身まで見失ってはいけない。困難な状況でも余裕のある自分が見えているからこそ、困難も乗り越えていけるのである。