『 笑顔の法則 』

私たちはなぜ、笑顔ばかりを作りたがるのだろう。快活な笑顔。優しい笑顔。人と話すときは笑顔。辛くても笑顔。笑顔でなければ人から好かれないし、面接にも通らない。仕事も上手くいかない。そんな思い込みに、いつのまにか捕らわれてしまっている。そして几帳面に笑顔を作ろうとする真面目な人ほど、笑顔に苦しめられることになる。先日出会ったTさんのように。

Tさんは大手機械メーカーの営業マンだった。我々のオフィスにやって来た時点で、Tさんはすでに10社以上の企業から不採用通知を受けていた。経歴書だけを見ると、営業実績はそこそこだし、技術的な知識もかなりある。しかし、面接でことごとく落ちてしまうのだという。Tさんに実際に会ってみて、私はなるほどと思ったのだった。問題はどうやらTさんの笑顔だった。

世間一般の“できる営業職像”と言えば、魅力的な笑顔に爽やかな語り口。Tさんはそれを頑張って心掛けているのだが、上手くいっていないのだ。どうしても、卑屈めいた笑顔に見えてしまう。聞けば新卒当時から、大口顧客の無理難題に必死で対応していたのだという。もう媚びることに耐えきれなくなったとTさんは言うのだが、その重圧は彼の笑顔に跡を残していたのだ。

だが、いくら客観的な意見を述べるのが私の仕事とはいえ「笑顔が卑屈だから面接に落ちる」などとは、人としてとても言えなかった。そこで、新たな面接に望むTさんに、私はこう言ってみたのだ。「あの会社はビジネスライクな人物を好みます。面接では笑顔厳禁ですよ」と。結果は、効果てきめん。あれよあれよいう間に、Tさんはその会社への入社を決めてしまったのだ。

入社手続きが終りに近づいたある日。私は思い切って、感じていた正直なところをTさんに打ち明けたのだった。Tさんは最初驚いた様子で聞いていたのだが、やがてこう言った。「面接の時に笑わないでいたら、なんだか自分がクールなビジネスマンになったような気がして。ドラマの主人公みたいだなあ。これから、そんな営業マンになれればなあと、その時思いました。」

そしてTさんは笑った。何かから解き放たれたような、自然な笑顔だった。私たちは皆、自らのアメニティー(好感度)を上げるために日々何らかの努力をしている。以前も述べた通りその努力は、組織の中で生きる以上、必要不可欠のものだ。しかし好感は無理やり作るものではない。自分自身が好感を持てる自己像を作ってこそ、自然な表情と同じように出てくるものなのだ。