『 ビジョンと戦略の法則 』

私たちは夢のある話に魅かれる。また夢を語る人にも魅かれる。それは転職市場にも、ひとつの傾向として如実に表れていると思う。例えばIT系ベンチャー人気は、業界の新陳代謝が激しいと認識され始めた今も高いままだ。ところが一方で、最近IT系ベンチャーの周囲にこんな動きも出てきている。

IT系ベンチャーを退職した人を中心に、「IT系ベンチャーだけは絶対に紹介してくれるな」と言う人がちらほら出てきているのだ。もちろん、次の転職先もぜひIT系ベンチャーで、と言う人も沢山いるのだが…。二度とIT系ベンチャーでは働きたくないという人には、一体何があったのだろう。

例を挙げてみよう。意外に狭い世界なので詳しく書くことは避けるが、私が出会った幾人かのIT系ベンチャー退職者から聞いた話を並べてみたいと思う。彼らが共通して言うのは「建前だけの夢に躍らされた」ということだ。

いわく、社長の語る将来ビジョンに感銘を受けたのだが、入社してみると肝心の社長にビジョン実現への意欲がなかった。または、寝る間も惜しんで仕事に取り組んだのだが、結局出来上がったのはビジョンだけが反映され、それを現実に運営する手立てのない誇大広告のような事業だった、等々…。

中には「もう“ビジョン”なんてものは信用しない」とまで言う人もいた。確かにそう言いたくなる気持ちもわかるが、すべてのIT系ベンチャーが夢だけを売って瞬発的に稼ごうとしているわけではない。夢の実現のために知力を尽くした戦略を打ちたてているIT系ベンチャーを私は沢山知っている。

かたや確固とした戦略を確実に積み重ねていく会社も、戦略の先にビジョンが無ければどこかで頭打ちになる。何を目指すかという“夢”、目指すためにどうするかという“戦略”。どんな会社でも、またどんな人間でも、両方兼ね揃えていてこそ信用に足る。色々なビジョンが語られ、食傷ぎみの今だからこそ、夢も現実も見失わないフラットな視点を持ち続けたいと私は思う。