『“何を期待されているのか”の法則 』

経歴書について述べた前回の文章をちょうど書いていたその時、私はとても 残念なケースに出会ってしまった。話の主は、システムエンジニアのYさん である。彼女は経歴書を完璧に書き上げ、相手先の企業も8割方採用する気 になっていたのに、面接でつまずいてしまったのだ。何が悔しいといって、 転職者と我々コンサルタントにとってこれほど悔しいことはない。経歴書な らいくらでも書き直しができるが、面接だけはやり直しがきかないからだ。

実はもともと、YさんのスキルはW社が求めるレベルに達していなかった。 しかし経歴書の段階では、W社もそれを充分承知して採用するつもりでいた のだ。経歴書から伺える“年齢のわりには着実にスキルを積んできた、やる 気のあるYさん”という人物像に、W社は何よりも期待していたのである。 「ですから、この面接のポイントは、あなたの吸収力をいかに見せるかです よ」と、面接の前に私はYさんにレクチャーしたのだが。。。いざ面接に行っ てみると、Yさんは初転職の緊張のせいか、全くとんちんかんな自己アピー ルをしてしまったのだった。「あれも、これも、そしてこれもできないので すが、私なんかで大丈夫なのでしょうか?大丈夫なのでしたら頑張ります」 というような、ポイントのずれた弱いアピールしかできなかったのである。

不採用の結果を伝える席上で、私はYさんに再びレクチャーした。経歴書と 面接の自己アピール法は、基本的には全く一緒なのだと。「経歴書に書く内 容は、相手方のニーズに合わせて変えますよね。面接で何をどう言うかも、 相手方が期待していることを察して考える必要があるんですよ」。Yさんは “○○はできますか?”というW社の質問に対して、その質問の真意を汲ま ず、ストレートに“できません”と答えてしまっていた。Yさんの意欲に期 待していたW社の真意は“できないならできないで、代わりに何ができるの か。今後いかにスキルを積むつもりか”であったのにだ。 「このように相手方から何を期待されているかによって、答える内容や姿勢 を考えなければならないんです。緊張する場では臨機応変に対応するのが難 しいと思うかも知れませんね。でも、実はそんなに堅苦しく感じる必要もな いんですよ」。要は、相手先がなぜ自分を採用候補に選んだのかを、充分理 解した上で面接に望めばいいのだ。と、私はYさんに説明したのだった。

なるほど、とYさんはうなづいてくれた。「緊張してしまって、確かに私は 自分のことしか考えていなかったような気がします」。それがわかれば次は 大丈夫だと、私はYさんを励ました。「W社のことは残念ですが、一度はW 社の目に留まったあなたです。気持ちを切り替えて次を考えましょう」。ず っと落胆していたYさんだったのだが、そこでやっと笑顔が戻ったのだった。