『 企業と仕事の法則 』

外資系企業A社の人事担当者から、先日興味深い話を聞いた。その会社は ハードウェア系のメーカーなのだが、なぜか“サポート”と名の付く職種に 求人応募が殺到するのだと言う。具体的に言えば“テクニカルサポート”、“ユーザーサポート”等の職種名称である。他の職種の数倍もの応募がある らしい。

だが「それは選考のしがいがあるでしょう」と私が言うと、人事担当は少し 辛そうな顔をするのだった。「有り難い話だということは重々承知なんです。 でも…」。聞くと、その応募者の多くはスキル的に、残念ながらお断りを入 れざるを得ない人々なのだそうだ。サポート系職種の募集期間中は、数百通 もの丁寧な“お詫びメール”を連日徹夜で書くのだと、人事担当は言った。

では、なぜ“サポート”と名の付く職種に応募が集中するのか。A社は有名 な大手企業である。企業イメージも良く、機会があれば入社したい人は大勢 いると思われる。しかしA社が普段募集する人材の多くは、プロダクトマ ネージャー(製品開発担当者)やビジネスディベロップメント(技術側面か らのビジネスコンサルタント)といった、名前からして高度そうな超難関職 だ。

でも、ユーザーのサポートなら自分にもできる。応募者はそう考えているの かも知れないと、私は思った。実際には、“テクニカルサポート”は高難易 度の技術問題を解決する専門職。“ユーザーサポート”は確かに一般ユー ザー担当だが、中途採用の正社員は、部署リーダーとしての役割を兼務する ことが多い。スキルや経験の必要性から言えば、他の職種と何ら変わりない のだ。

A社は自社の求人情報に、仕事内容や応募資格の詳しい説明を入れている。 それでも応募資格に満たない人からの応募が絶えないのだという。挑戦して みようという気持ちは確かに大切だ。憧れの企業で働きたいという気持ちも わからないではない。しかし、職種の名前のイメージだけで“自分の仕事” を選ぶ気には、私はどうしてもなれないのだ。たとえ恋い焦がれた企業で も、内容的に誤解していた仕事を本当に任されて、果たして幸せだろうか?

転職先を、企業で選ぶか。それとも仕事で選ぶか。どちらかを選べと問われ れば、私は仕事と答える。企業の評判や実力などといった情報は手に入りや すい。しかし、そこで働く人々が実際どんな仕事をしているかは、自ら知ろ うとしなければ正確に分からない。企業が自分の一生ものとなる可能性より、 仕事が自分の一生ものとなる可能性の方が遥かに高いのだ。企業以上に仕事 を知る必要があると私は考えている。