『 何が大切か、の法則 』
不動産屋でマンションを選ぶとき、わざわざ“北向き”の部屋を希望する人がいるらしい。最も嫌われる物件をなぜ?とお思いになるかも知れないが、ちゃんとした理由がある。“大切な家具を日焼けさせない”ためだ。洗濯物の乾き具合よりも、家具の美しさを優先する。この価値観を、私は理解できない。理解できないが、偉いとは思う。自分にとって何がいちばん大切かを知り、その信念に基づいて行動しているからである。
Kさんも、自分にとって大切なものをよく知っている人だった。彼の場合は転居先でなく、転職先を探していたのだが…。人事総務畑ひと筋の43歳。私の紹介で2度転職し、2度目でやっと満足してくれた。彼の探していた転職先は、「とにかく朝から晩まで、身を粉にして働ける所」だったのである。
1社目は400名規模の商社。人事総務のエキスパートに社内体制の変革を一任したいというニーズが、Kさんの希望とぴったりマッチした。この不景気にも業績堅調な優良企業。年収140万円UPで入社という好条件。しかしである。彼は1年で耐えきれなくなり、私の所へ戻ってきてしまった。
「もう地獄でした…」Kさんが私に訴えた内容はこうだ。
“社内体制の変革をしたい”というのは、実は社長ひとりの願望だった。もともと、ほっといても売上の伸びる会社。管理職からヒラ社員まで毎日定時きっかりに退社し、誰もそれ以上の努力はしたがらない。やる気に燃えるKさんは、皆にとってケムたい存在でしかなかった。それでもめげずに社内の問題点を抽出していると、とたんに肩書をはずされ、仕事を取り上げられた。最後の数カ月間、Kさんは案内状のスタンプ打ちをしていたらしい。
「家内も言うんですよ。5時に帰ってきて死人のような顔をしてるあんたなんか見たくないって。」Kさんの顔を見ながら、私もうなずいた。
「Kさんの満足しそうな会社が、あるにはあります。でも、相当キツいですよ。」断られるのを覚悟で言った。「毎晩午前2時まで働いてるそうです。」
信じられない、理解しがたい、と思うかも知れない。でも、Kさんは大喜びで再び転職していった。社員も売上も倍々ゲームで伸びている、設立したてのベンチャー企業だ。Kさんはそこで、人事部門を1から立ち上げている。
「いやあ大変ですよ。初出社の当日に福岡出張ですよ。」3時間しか寝ていないという、電話越しのKさんの声は、しあわせそうに弾んでいた。
自分には何が大切か。転職の世界でもやはり、それを知っている人は強い。
たとえ変人に見えても、無難な満足以上のものを手にするのは、彼らなのだ。
![転職、派遣、アルバイトまで!求人メルマガ [en]キャリアニュース](http://columnjob.en-careernews.com/images/en_logo.gif)
