『 人生の選択と義理人情の法則 』

仕事には多かれ少なかれ義理人情がからんで当然だと思う。信頼のおける人の勧めだから真剣に検討する。世話になった人だから恩返しする。そんな気持ちは、いくらビジネスライクな世の中になろうと、私たちひとりひとりのビジネスの中に生き続けていくのだと思う。

だが、自分の大切な局面で、義理人情を何よりも優先したために失敗する人もいる。例えば先日我々のオフィスへ来たJさんは、転職の好機を逃してしまった顛末を私に話してくれた。Jさんはエンジニアとして通信系開発企業に勤めていたのだが、その所属部門が売りに出された頃に話はさかのぼる。

部門ごと他社へ売られる話を聞きつけ、Jさんは転職を決意した。紹介会社に登録し活動を開始すると、すぐに複数の企業から打診があった。脂の乗った通信系エンジニアと認められ、引っ張りだこ。後は充分な選択肢の中から気に入った企業を選ぶだけだった。ところが彼は転職を断念したのである。

「今まで一緒にやってきたんだ。例え他社の所属になっても、皆で頑張っていこう」と、部門の仲間たちから引き留められたのだ。もともと職場に不満はなかったJさんは心を動かされ、仲間たちと一緒に部門に残る道を選んだ。環境が変わっても、皆で結束して乗り切ろうと励ましあっていたのだが…。

買収後の部門には、買い手企業の社員が多数入ってきた。Jさんらは立場が悪くなり、仕事も思うように進まないやりづらさ。だんだん「やっていられない」とこぼす仲間が増え、一人辞め、二人辞めしていく。そして、今度は逆にJさんを残し、殆どの仲間が転職していってしまったのだ。

再度の転職活動を始めたJさんは、前回のような好条件の転職先になかなか出会えず苦戦している。人間なのだから、人の心に動かされる瞬間は誰にもあるだろう。だが、人生の選択の瞬間には、独立した自分を持っていたいものだと思う。たとえ、それが難しいことだとしてもだ。