『 可能性の法則 』

「経験ないけど、○○の仕事がやりたいんです~」。こんな夢見る発言で、私の頭をクラクラさせてくれた人々…。最近、パタリと見かけなくなった。
代わりに増えたのが、なんだか元気のない人々である。「私は多分○○の仕事しかできませんよね…」という具合に、委縮しているのだ。これも不況の影響かと思うと寂しい気がする。“夢見る人々”の方がまだ元気はあった。
営業だから営業しかできない。経理だから経理しかできない。自分の可能性に窮屈な境界線を定めてしまって、果たしていいものなのだろうか。

Mさんという元証券マンの、少し明るい話題をご紹介しよう。31歳の彼は、いわゆるバブル入社組。潰れかけの会社から放り出されてしまったクチだ。「がむしゃらに証券営業だけやってきた自分には、今さら別の仕事と言っても、何もない気がします…」。Mさんもすっかり自信をなくしていた。

だが彼の職務経歴書からは、元気のないMさんとは違う人物像が見て取れたのだった。営業リーダーとして20人からの部下を束ねるかたわら、不況下にもかかわらず、彼自身かなりの営業成績をあげていたのだ。
Mさんの経歴書を見て、ある企業が採用したいと名乗り出た。証券会社ではない。まったく畑違いのダイレクトメール代行会社、P社。しかも営業マンとしてではなく、基幹部門の部門長として迎えたいというのだ。
「Mさんの経験がぜひ欲しいんです。年収のアップも検討しますから」。

毎日数千部からのDMを封入・ラベリングし、発送する。P社のDM発送処理部門は、戦場のような忙しさである。数日、いや数時間後に迫る発送時刻を睨みながら、大勢のスタッフに的確な業務分担を行ない、指揮をとる。それが部門長の職務であり、Mさんのような人が適任だとP社は言うのだ。
Mさんは驚き、思わず聞いた。「DMのことなんてわかりませんが、いいんでしょうか…」。P社から返ってきた返事はこうだった。「大丈夫、すぐ覚えますよ。我々は知識が欲しいんじゃない。多人数のマネジメント経験と、厳しい状況下で職務を遂行した経験。その2つこそが欲しいんです」。こうして、不安に満ちたMさんの転職は、あっさり逆転勝利をおさめたのだった。

思いもよらなかったことが、思いもよらない分野で経験として認められる。まだまだ、そんなこともあるのだ。捨てたもんではない。委縮するだけ損だ。自分ではわからないから“可能性”と言うのではないか。わからないものを無理に線引きしようとするから、変に期待したり自信をなくしたりするのだ。今までの仕事で得た経験を経歴書にまとめたら、まず、しかるべき他人に見てもらう。人材コンサルタントの宣伝ではないが、ひとつの手だと私は思う。