『 嘘の法則 』

企業の人事担当者は、嘘を見破ることに長けている。何処の誰とも知れない初対面の人物と毎日のように向かい合い、仲間にするかしないかという基準で観察するのだから、上手くならないわけがないのである。私がよく話をする某企業の人事Mさんは、80%ぐらいまでなら見破れると豪語していた。

さて、このMさんだが、転職者の話が嘘だとわかっても追求したりはしないそうだ。人事になりたての頃は、根掘り葉掘り突っ込んで、つじつまの合わない事を暴かなければ気が済まなかった。だが最近では嘘は嘘として冷静に“評価”するようになったのだという。ある時Mさんは、「もちろん嘘臭いなと思った時点でマイナスですよ」と前置きして、こんな話をしてくれた。

ある時Mさんの会社で、正社員登用前提のアルバイトを募集した。半年の区切りで正社員になるかならないかを本人と会社の双方が選択する条件である。すると、正社員志望で現在フリーターをしているという人が多数面接にやって来た。Mさんは1日5~6名、のべ50名の志望者と面接したそうだ。その中で彼は、思わず唸るような嘘をつくフリーターに出会ったのだという。

その志望者は、「なぜ今まで正社員にならなかったのか?」という問いに、こう答えて見せた。自分は、実際に働いてみないと会社や仕事の善し悪しは判らないと考えている。正社員になることは一生をかけるということなのだから、実際に体験して決めたい。しかし、今まで色々と手を尽くして探してはみたが、自分の志望する業界ではそんな募集にお目にかかれなかった…。

嘘っぽい、とMさんは思いながらも、よく考えてあると感じたそうだ。特に、正社員という立場の安定性ではなく、思い入れを強調しながら理由に結び付ける点。体験してから決めて欲しいという会社側の募集意図を充分に理解した上で、話にからめてある点。「こちらの意図を見抜いた上で、何をどういう方向から話すべきか考えてあるんですよね。上手いなあ、と思いました」

普通なら、ありのままを正直に答える人だけを採用候補にする所だろう。だが、Mさんはその人も採用したそうである。5年経った今、彼は営業部門でもトップクラスの成績を納める人材に育ったそうだ。「結局何を言うにしても、相手の思いを考えながら言っているかどうかって事だと思うんです」とMさんは言った。私も、そうだろうなと同感したのだった。