『 やる気の法則 』
転職市場に関っていると、“やる気”という言葉をそれこそ毎日のように耳にする。企業は“やる気のある人が欲しい”と言い、転職者は“自分にはやる気だけはある”と言う。“やる気”という言葉が転職市場にあふれていると言ってもいいだろう。こうも“やる気”“やる気”と聞かされていると、“やる気”という言葉が単なる枕詞に過ぎないようにも思えてくる。
なぜなら、その“やる気”の中身が、えてしてさっぱりわからなかったりするからだ。「自分にはやる気がある」と言われれば、こちらは当然「何をどうやる気ですか」と聞き返す。しかし、自分が何に対して“やる気”になっているのかさえわからない“自称やる気に燃える人”が多いようなのだ。
本当に“やる気”があれば、“やる気”なんて言葉は不要だ。この前、ある転職者の方とお会いしたことで、私はますますそう考えさせられたのだった。彼は、Tさんという51歳の元営業部長である。最初にTさんが我々のオフィスを訪ねてきた時、私は正直、Tさんの転職は難しいのではないかと思った。高齢での転職に加えて、Tさんが全く畑違いの分野を志望していたからだ。
「高齢者にネットを普及させる仕事をしたいのです」とTさんは言うのだった。趣味の釣り情報を得るためにネットを始めたTさんは、将来身体の自由がきかなくなっても、パソコンを使えれば生き生きと人と交流できることに気付いた。自分のような高齢者の仲間をもっと増やしたい。高齢者の自宅や老人ホームを廻ってパソコン環境のレンタルや販売をし、自分のような同年代の者がインストラクションをし、とTさんは事業の青写真まで描いていた。
自分で事業化することは資金の問題でできない。しかるべき場所に身を置いて経験も積みたい。ということで、Tさんはネット系の企業を志望していた。果たしてそんな希望を受け入れる企業はあるのだろうかと思いながら、私はいくつかの企業に打診したのだった。あった。Tさんの“事業計画”に興味を示したあるベンチャーが、ぜひTさんに会いたいと言ってきたのだ。
私は同席できなかったのだが、Tさんとそのベンチャー代表の面接は、さながら事業計画会議のようであったという。後で代表は私にこう言った。「Tさんの“やる気”にほだされました。試験的にですが、一緒にやってみようと思います」。Tさんは自分に“やる気”があるとは一言も言わなかった。自分がやりたいことを見据え、実現に邁進しただけだ。そんなTさんの姿が、結果的に“やる気”を伝えたのである。その時私は思ったのだった。“やる気”とは、具体的な何かを、自分ではなく相手が評するための言葉なのだと。
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