『 英語と仕事の法則 』
私の姪にN子ちゃんという子がいる。現在、短大1年生。しっかり者の同期の仲間なら、もう就職活動を始めているころだ。しかし彼女はどうも気が進まないらしい。 先輩の苦労を目の当たりにして“自分には無理”という思いばかりがふくらんでいくという。この市況では致し方ないかも知れないが、典型的な就職モラトリアムだ。先日久しぶりに親戚一同が会したとき、彼女から相談を受けた。就職活動をしても多分ダメだろうから、いっそのこと留学したいと言うのだ。「帰国後は英語を使う仕事ができるようになるし、有利だと思うんですが…。そこんとこ、どうなんでしょう」。
これとまったく同じような質問を、人材紹介のオフィスでも、私はひんぱんに受けている。失礼を承知で正直に言うと、ひんぱんすぎてかなり辟易ぎみなのだ。“英語を使う仕事をしたいのですが、何かないですか”。“TOEIC750点です。これを活かせる仕事を探しています”。留学後、帰国したその足でオフィスに出向いてくる人もいる。
私はN子ちゃんに、逆に質問してみた。英語を使って具体的にどんな仕事がしたいのか?。う~んと考え込んでしまい、答えが出てこない。実は“答えが出ない”ということが、私の答えなのだ。“英語を使う仕事”なんていうものは、そもそも存在しないのである。
英語はあくまで“語学”であって、仕事ではない。読み書きだけなら、帰国子女の子供だってできる。2年ばかり向こうの大学で真面目に勉強すれば、TOEIC750点ぐらい大方の人がクリアできるだろう。機会さえあれば誰もが身に付けられる“能力ベース”に過ぎないのだ。肝心なのは“語学をベースに何ができるか”。その“何ができるか”という部分が、仕事の核心なのである。例えば人材派遣業界などでも語学ベースの仕事は多く取り扱われるが、登録者のTOEICの点数などは単なる“素地”としか認められない。貿易事務なら輸出入の処理ができるか等、実務能力の方を厳しく評定されるのだ。
最近は“今後のビジネスマンは英語が必須”とも言われ、語学熱再燃の気配である。確かに仕事上、必要に迫られれば何としても身に付けるべきものだろう。しかし“語学必須”という雰囲気だけが独り歩きしているような気がして、少々心配なのだ。仕事そのものを先に身に付けるべき人々が、語学学校や留学先で貴重な時間を無駄にしているとしたら、何とも本末転倒な話ではないか。本来はバイリンガルになるよりも先に“自分はこの実務ができる”と胸を張って言えるスペシャリスト性を身に付けるべきなのだ。
留学より“自分は何をしたいのか”をまず考えてみたら。と、私はN子ちゃんにアドバイスしたのだった。目指す仕事がはっきりしている方が、英語を使えるより遥かに就職に有利であると。「う~ん、これから考えてみます」と答えてくれたのだが…。果たして彼女は見つけたのだろうか。お節介かも知れないが、そろそろ連絡してみようと思う。
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