『 キャリアアップ転職の法則 』

「パソコンオペレーターの経験があるのですが、もっと技術を身に付けたいのでプログラマーの仕事をしたいんです」。私の前に現れた女性の転職者Rさんは、熱くそう語ってくれた。確かに意気込みは感じる。新たな将来を切り開くのだという真摯さもある。しかし私は、そんな彼女に色よい返事を返すことができなかった。「プログラマーの求人は今、実務経験者であることが第一条件です。未経験から教育する企業はほとんどありません。気持ちを切り替えて、オペレーター職でもう一度探しませんか」。すべての希望が奪われたように思ったのだろうか。Rさんはその場で泣き始めてしまった。

自分にとって、もっとプラスになる仕事がしたい。新たなスキルを身に付けキャリアアップしたい。べつに転職志望者でなくとも、多くの人がそう考えているだろう。考えて、実際に努力すること自体は素晴らしい。ただ転職によって仕事内容まで変えてしまうとなると、少し事情が違ってくる。

全くの未経験から採用・教育する企業は、今は少数派となりつつある。増員ではなく欠員募集が求人の中心となったからだ。欠員、つまり辞めた人の穴を埋めたいがために、企業も必死の思いで採用選考する。“辞めた○○さん”と同じ仕事ができる人に来てもらわなければ、明日からの仕事がまわっていかない。即戦力で働ける人がどうしても必要なのだ。辛いけれども、未経験から新しいことに挑戦したい人にとっては、かなり分の悪い転職市場である。

私は常々思う。ひとくちにキャリアアップと言っても、いろいろな形があるのではないかと。“今までと違う仕事へのチャレンジ”だけが“キャリアアップ転職”なのだという考えに縛られたままでは、自分を追い詰めてしまうだけだ。私たちも、発想の転換が必要なときなのだ。

飽くなき上昇志向で上を見続けるより、ちょっと下にも目線を向けてみる。それは、決して単純なレベルダウンではない。自分のような経験を持つ人材がいなくて困っている職場、本当に必要としてくれる職場を見つけるということだ。スキルが足りないのに無理矢理潜り込んで失望されるより、すごいと誉められ大切にされるほうが、よほど幸せな転職ではないだろうか。そんな転職も、立派な“キャリアアップ”とは言えないだろうか。

泣きだしてしまったRさんに、私は同じような話をしてみたのだった。気を取り直した彼女は今、数社の面接を受けている。ハイレベルなオペレータースキルを積んできたRさんなら、きっと、いい職場に出会えることだろう。