『 経験活用とニーズの法則 』

“経験を活かす”とは、経験を基に経験の幅を広げることだと先週お話しした。だがこの考え方には一つ注意点がある。確かに、経験にプラスアルファを加わえていく努力は、自分の市場価値の向上に欠かせない。しかし経験の幅を一度に拡大しようとして、過去の経験と地続きでない分野を目指している人も見かける。これは経験を活かす転職でなくキャリアチェンジになる。

キャリア“チェンジ”は素養を武器に未経験の分野へ入るものであり、経験と地続きのキャリアを得る転職とは別のものだ。だが一定分野でのキャリアアップを望んでいる人が、本人も気づかぬうちに“チェンジ”を志望していることがある。どちらを望むにしろ、適切なプランが立てられていないのだ。

こうした転職では、本人の希望と市場のニーズが噛み合わないことにもなりがちだ。自分の希望だけが先走ってしまいかねない。例を挙げてみよう。生保の営業をしていたKさんである。Kさんは、今までの仕事で培った金融知識を活かして、一般企業での経理をしたいと志望していた。

Kさんの志望を聞いた私は驚いた。彼は金融知識があれば経理実務をこなせると思っていたのだ。だが実際は皆さんもご存知の通り、金融に関わる仕事と経理実務は中身も流れも違う。彼には経理に関する知識や経験は全くと言っていい程なかった。つまり経験を活かそうにも、活かす経験が違うのだ。

案の定、Kさんの元にはオファーが一件も集まらなかった。私はKさんに、経験を活かして転職するならば生命保険分野を含む金融業界で知識を生かす道を志望するべきだと提案した。過去の経験と地続きのキャリアプランを立ててこそキャリアの幅が広がるのであるし、市場ニーズともマッチするのだ。

Kさんは今、改めて今後のキャリアプランについて考えている所である。新たな希望を持って転職に臨むことは確かに大切だ。しかし、その希望は果たして人材市場にニーズのあるものなのか。そしてその希望は本当に自分のキャリアの幅を広げてくれるものなのかという冷静な視点が必要なのだと思う。自分のニーズと相手のニーズを分析しながら、双方が満足する提案をしてこそ、社内での企画も通るし契約も成立する。転職もそれと同じである。